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【エッセイ】人生演劇論批判【#010】

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演劇人生論を読み、この作者に意見を送りたく、筆を取ることを決意した。

私は演劇という芸術、表現手法に大いに魅力を感じ、演劇を始めた。

演劇人生論の作者(以下、人生論者)は、演劇という単なる娯楽と同じであると言いたいようであるが、私は決してそうは思わない。人生論者も舞台に立つ演劇人としての自尊心があるのであれば、演劇がそんじょそこらのどんちゃん騒ぎと全く違うことを理解してほしいものである。

そもそも、人生論者の変人のカテゴライズが、非常につまらないものである。人生論者のいう変人とは、いったいどのような人物をイメージしているのか。私には全くわからなかった。一般的な変人像など、果たして存在するのだろうか。甚だ疑問である。

人類は皆個性を持っているという点で変人であるという主張は大いに同意するが、それがなぜ、人類は皆演劇を始めるべきである結論と結びつくのか。

演劇という行為は、古くから芸術として親しまれてきた側面がある。あるいは、自己表現の一手段として用いられてきた側面もあるだろう。

こういった行為は、そこらへんに転がっている娯楽は、明らかに一線を画している。演劇には、他の芸術作品にはない表現方法が多分に含まれている。役者の息遣い一つ、音響を流すタイミングのコンマ一秒、照明を当てる角度のその1度、これらすべてが、芸術に富んだ、表現方法のそのエッセンスとして組み込まれているのである。

これほどまでに、素晴らしい芸術作品を完成させることは、決して生半可な覚悟ではできない。演劇を行っているということに対する自尊心と、それに対する情熱が備わっていなければならない。演劇オタクという言葉が適切かはわからないが、道端を歩いている人からすれば、決してその感覚がわからないであろう演劇に対する気持ちを持つ必要があるだろう。

こういった理由から、人生論者の言葉を借りるならば、凡人には決して理解できない、演劇に対する気持ちが高ぶっている変人でなければ、演劇をやりきることはできない。

もちろん、演劇に完成などないということは言うまでもないことではあるが。

さらに、「変人は観客をドン引きさせてしまう」という人生論者のチープな発想であるが、演劇が自己表現や芸術の側面を持っている以上、自分がやりたいと思ったことをやらずに、どこか妥協点を探る行いの方がはるかに愚かであると言える。

極論を言えば、観客がドン引きさせる覚悟がないほどの芸術、表現であるならば、そんなものは世に出す必要性はない。

ゴッホが自らの生き様を絵筆に込めたように、バッハがその人生を楽譜にしたためたように。

演劇を行うものは、その魂を演技に、脚本に、演出に込めなければ、それこそがわざわざ足を運んでいただいた観客に対して失礼極まりない行為である。

観客に対して、演劇を行うと言うのであれば、観劇にくる者が何を求めているのか。そして、その要求に応えることが、観客のためであると私は考える。

最後に、「人間は日常生活の中で、自らセリフを作り出して口にしているので、誰もが演劇をできるはずだ」という愚考の極みとも言うべき主張であるが、見当違いもここまでくれば笑えてくる。

確かに円滑なコミュニケーションの場では、適切なセリフを頭の中で練ることもあるかもしれない。しかし、演劇の舞台の上でセリフを扱うことと日常生活のそれとは、まったく似ても似つかないものである。

まず、他人から与えられたセリフを不特定多数の観客前でしゃべるということがどれだけ大変なことなのか。本当に、人生論者は演劇をやったことがあるのだろうか。

他人から与えられたセリフを口から出すだけでは、そのセリフは嘘になる。たった一つのセリフを言うことに、どれだけの稽古量が必要になるのか。

また、人前に立つということは、簡単にできない。ただ、舞台の上にいるだけではダメなのだ。観客に魅せるということを意識しなければ、舞台に立つということにはならないのだ。セリフがなくとも、舞台に上がるだけでも、それ相当の稽古が必要となるのである。

決して、誰しもが易々と舞台上で演技ができるわけではない。

演劇が、演劇たらしめるその根拠は、演劇に携わる者の、血の滲むような努力に支えられているのである。たった一人でも、その努力を怠る者が存在すれば、その舞台は崩壊する。

人生論者は、その覚悟を持ちえない人物すらも舞台上にあげろと言っているのだろうか。

はっきりと言おう。人生論者は演劇を愚弄している。

人生論者の望む通り、私が思うことを乱文に込めて、批判を行って差し上げた。

私の意見も数ある演劇論の1つなので、もちろん批判される対象になることは覚悟の上である。しかし、その危険を冒してでも、人生論者に対して意見をぶつけなければ、私の不満が収まらなかった。

人生論者よ、あなたに負けず劣らずの文章力であるが、この文章がしっかりとした意味で、あなたに伝わることを心から望む。

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