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書けない日々が教えてくれたこと

去年の夏に産んだ子どもの慣らし保育が始まり、今日は午前中の2時間だけだが家で一人になった。

こんなにまとまった時間、しかも体調に問題のない状態で自由になったのはいつぶりのことだろう。

その2時間の間に私が何をしたかというと、自分の書斎にこもり、デスクでパソコンの電源をつけることだった。

産前のように、家で一人きりエルゴヒューマンのビジネスチェアに座る。かれこれ10年使っている愛用のREALFORCEキーボード、EIZOの27インチモニター。

モニターいっぱいにエディタを広げてキーボードを叩き始めた途端、嬉しすぎて胸が震えた。


書ける。子どもが起きてくる時間や食事の世話のことを考えずに、長い時間執筆に集中できるんだ!! ヒャッホオオオーーーー!!


涙か鼻血が出そうなくらい興奮して、それでつくづくわかった。

ワンオペ育児が休みなく続いていたこの七ヶ月は、やっぱりしんどかったんだ。

幸いなことに、育児自体が辛いと思ったことはない。子どもは銀河レベルで可愛く愛おしく、育児もかなり楽しい。正直向いているとも思う。

ただそれでも、「思うように書けない」という一点においては、どうしようもなく苦しかった。

まず、どうやったって時間と体力に余裕がない。そして子どもと一緒にいる限り、集中力を完全に他のことに振り向けるのは至難の業だ。夫は激務でほとんど家にいないし、たまに義母やシッターさんを家に呼べても、本当に何もかもを放り出して机にかじりつけるかというと微妙である。

もちろん、それでも手は尽くした。子どもが寝ている間はなるべくパソコンやポメラを開いたし、寝ていない時でもたとえば両手が開く授乳中などにはスマホでメモをとった。一時預かりをしてくれる施設に行ったりもした。

それらの成果がゼロだったとは言わない。だけど、なかなかうまくいかなかった。単純な疲労のせいなのか、マミーブレインなどといわれる脳のモードの問題なのか、書いても書いても砂をつかむような焦りや空虚感に襲われて、やっていることが積み重なっていかないのだ。

しんどいのは、自分が何を良いと思っているのか、どこにこだわりたいのかといった嗜好もどんどん見えなくなって、その結果猛烈な自己批判ばかり頭の中で繰り広げてしまうことだ。この傾向は妊娠中も強かったのだが、出産を終えてもなかなか改善されなかった。今振り返ると、軽いノイローゼ状態というのか、鬱っぽくなっていた時期もあったように思う。まあ、産後の状態としては珍しくないのだろうけれど。

そういう時期の私の救いは、「保育園が始まって本当に体が空けば、また脳のモードが変わって、見える景色も違うものになるのではないか」という未来への期待だった。

そして実際、今日の2時間は至福だった。

ただし見えたのは、違う景色などという自分の外にあるものではなくて、自分の内側そのものだった気がする。

もう何も書けないんじゃないか、そもそも私なんて何も書きたくなかったんじゃないか、と不安になったことが幾度もあった。でもどうやらそうでもなさそうだ。赤ん坊という圧倒的な存在の前で自我の濃度が自動的に薄くなっていただけで、書けるのはやっぱり嬉しいのだ。

もちろん、このあともまだまだ大変なことはあるに違いない。何しろ子どもが大きくなっていくのはこれからなのだ。保育園の洗礼といわれる家庭内病気祭りが吹き荒れる確率は高いし、私自身や家族の身に、何かイレギュラーな事態が起きることも考えられる。また何かで凹み、イラつき、もう駄目だといじけるかもしれない。

でも、何度駄目になってもいいや、と今日キーボードに触れてみて思った。

こんなにも強く、突き上げるように「書けるのが嬉しい」と思ったのは久しぶりだった。

私の地層の底にはたぶん、いつもこの気持ちが地下水のように流れていたのだろう。私がうまく汲み上げられていないだけで。

それがわかったから大丈夫だ。

もう一度、書くことを楽しみ直そう。子どもを保育園に慣らしていくように、私も書く生活に自分を慣らしていこう。



……と、この文章は、その2時間の間に書いたものをあとでちまちま直したのちにそれを根こそぎ捨てて、もう一度頭から新しく書いたものである。

2時間のタイムリミットのあと、子どもをあやしながら読み直したら最初に書いたものが気に入らなくなり、無数に修正を重ねたあげくわけがわからなくなったのだ。

冒頭の方の一文を延々書き直しながら途中ではっとした。またやっている。また自分の粗探しばかりして、揚げ足をとって、無駄に焦らせている。

もうそういうことはしたくない。そう思って全部消した。そして子どもが寝たあとにもう一度、ゆっくりこれを書いた。

消す前の記事にはいろいろな御託がこねてあったけれど、今思っていることは正直これだけだ。


モニターとキーボードで長い文章が書けそうで嬉しい!!!!!!! 
サンキュー保育園!!!!!!!

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