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詩集C(30代以降の作品群)

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社会派ミステリー小説、PHASEシリーズの著者 悠冴紀が、30代から現在にかけて書いた最新の詩作品を、このマガジン内で無料公開していきます。 なお、作品の下に、一見解説文のよ… もっと読む
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#退廃

詩 『答 え』

詩 『答 え』

作:悠冴紀

答えなど
はじめからどこにも存在しない

誰かの導き出した明確な答えは
他の誰かにとっての問いとなる

私にも誰にも
答えようがない

その時どきに見出す小刻みの持論なら
すでに幾度となく言葉にしてきた

年月を経て
それら全てが問いに帰する

だから朽ちない
循環により生を得る

終局を迎え 落ちた木の葉は
残像だけをおいて土にかえる

土を踏みしめる誰かが樹を見上げるとき
そこに

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詩 『帰還兵』

詩 『帰還兵』

作:悠冴紀

その戦場を生き抜いて帰還した後
君は友をなくすだろう

命からがら逃げ帰ってきた後
君は家族をなくすだろう

何かを護ろうと戦って
何より護りたかったものまで
壊してしまう現状に気がつくとき
君は自分の何かを置き忘れてきたことを知る

鏡を覗くと
それまで相手にしたこともない最強の敵

君のその混乱を見て
逃げ出さない者はいないだろう

生き抜くことだけを考えて
生き抜くためだけに強

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詩 『ヘンデルとグレーテル 〜石のしるべ』

詩 『ヘンデルとグレーテル 〜石のしるべ』

作:悠冴紀

流行病に 閉じこもり生活

しばらく離れて暮らす間に
皆ずいぶん変わったものだ

まるで魔法にかけられたかのよう
あるいは魔法が解けたのか……?

人も世界も
変わり果てた
醜く浅ましく暴力的に

以前と同じ姿のまま
別人と化してしまった人々
友への接し方さえ
いとも簡単に忘れてしまった

これまでに重ねた月日は
一体何だったのか ──?

なんとあやふやで脆弱な自己同一性

元より

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詩 『カウントダウン』

詩 『カウントダウン』

作:悠冴紀

都合だ
結局すべてが都合なのだ

裏切られたとは思っていない
期待も信頼も元よりなかった

端から明白なことながら
政治や社会に良心などない
国家というものにも良心はない

人の寄せ集めで構成されていながら
それらは しかし 人ではない

対して国なき民は
あまりに不利で無防備な存在
逃げ延びる先々で迫害を知る

同情的に扱われるのは最初だけ
あとは長きにわたり地獄が続く

里を追わ

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詩 『No Home』

詩 『No Home』

作:悠冴紀

私は人の子にあらず
とうに自ら放棄した

後悔はない
今は常に満たされている

家族はいない
二度といらない

母とは大地
父とは大気

私にはそれで充分だ

帰るべき生家はない
なくていい

すべてを宿しながら
何者をも囲わない 無限の宇宙
里と呼ぶに相応しい 唯一の場

皆はじめから
そこにいたのだ

影は智
光は力

思えばずっと
そう生きてきた

子にはならぬが
親にもならず

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詩 『壊れた人々 ~傷だらけの世界で』

詩 『壊れた人々 ~傷だらけの世界で』

作:悠冴紀

大地に砕けた鋭い硝子片
辺りに潜む無数の地雷

傷を負わされた人間は
その内側に凶器を育む

哀しいかな
過去の被害者こそ未來の加害者

周りのすべてを巻き込んで
新たな壊れ者を生み出していく

同病相憐れみなど
一時凌ぎの幻想だ

壊れ者同士で更に壊し合っては
足を引っ張り合うだけの末路

立場の近い似た者同士の接触は
更に危うい火種となる

僅かに食い違う価値観は
激しい怒りと憎

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詩 『巡礼~廃墟のホタル』

詩 『巡礼~廃墟のホタル』

作: 悠冴紀

荒野から荒野へ
廃墟から廃墟へ

誰も訪れなくなった場所を訪れ
乾いた風景を眺め歩く

そこはかつて川のあった場所
あとから塗り込められた灰色のコンクリートも
今は朽ち果て
さながら墓地の佇まい

川辺を舞っていたあの蛍たちは
一体どこへ消えたのか……

二度とは戻らぬ初夏の灯火
彼等の水は枯れてしまった
草木も川も 今はない

私はここに 嘆きに来たのか?
いや、心は至って穏やか

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詩 『無機質のユートピア』

詩 『無機質のユートピア』

作:悠冴紀

人は何にでも慣れるという
苦痛にも 恐怖にも 悲しみにも

少しでも楽になろうと望むあまり
己の感情を麻痺させる

確かに人は慣れていく
富にも 貧困にも 死臭にさえも

馴染んではならぬものもあるとは考えもせず
強さと信じて 慣れていく

人は自分で思うほど器用ではない

これほどの変化に馴染めたなら
他のどんな変化にも順応できるはずだと
驕り 高ぶり 過信する

激変に馴染めば馴

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詩 『鮫々のように 〜ダークブルーの海へ』

詩 『鮫々のように 〜ダークブルーの海へ』

作:悠冴紀

暗く 冷たい 水の中で
独り静かに佇んでいたい
冷ややかな眼差しを持つ あの鮫々のように

笑うことなく
馴れ合うことなく
誰も寄り付かないほどの深みに溺れて……

差し伸べる手など 必要ない
人々が救いと信じるものが
私には死だ

現に私は日に日に崩れ 朽ち果てて
元在る力すら見失ってしまった

己の本質に見合わぬ生ぬるいところへ
無理やりこの身を引上げてしまったからだ

一体どの

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詩 『自由の代価』

詩 『自由の代価』

作:悠冴紀

何人の人間が知っているだろう
自由とは完全なる孤立
誰にも何も求められなくなったあとの
真の孤独を意味すると

何人の人間が知っているだろう
自由とは責任ある選択の連続
誰の導きも 何の保障もない
日々手探りの道なき道を意味すると

自由を求めて闘うとき
人は輝き 高められる

自由を得て尚 生き続けるとき
人は戸惑い 途方に暮れる

得難いものを得た喜びに満たされ
今後の期待に胸を

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詩 『SPHINX ~ 一年の終わりと始まりに』

詩 『SPHINX ~ 一年の終わりと始まりに』

作:悠冴紀

過ぎ行く一年の終わりに
私はまた 君を振り返っていた

巡り来る一年の始まりに
私はまた 君を思っていた

今では行方も分からない君のために
私はこの先
どれだけの涙を流し続けるのだろう

一年の終わりに 私はまた
君にしてあげられなかったことを思い
謝っていた

一年の始まりに 私はまた
君がいなくてはできなかったことを思い
君の大きさを実感していた

君を失ったことで
私はなんと

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詩 『黒い雨』

詩 『黒い雨』

作:悠冴紀

空が泣いている
深く深く
傷を負った空が

黒い涙を頭上から散らし
夜の大地に染みていく

雨が降る
見える者にのみ見える泥づいた黒さで
鋭い雨が降りしきる

警告のように 罰のように
汚れた大地を打ち付けて

何が空を切り裂いたのか……
昨日の不実か 明日の残酷さか

知っていたはずだ
我々は証人

忘れてはならない
加担した

雨が見える
黒ずんだ雨が

空は不気味に赤黒く濁り

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詩  『鬼~母なる地球の連環計』

詩 『鬼~母なる地球の連環計』

作:悠冴紀

人類の繁栄と 夢の果て
止め処ない人口爆発とグローバル化

広がるところまで広がれば
いずれ自壊して収縮の時を迎える

目に見えていたはずのこと
これはいわゆる揺り戻しだ

よもやこんな形でとは知り得なかったが
予感と覚悟は常にあった

これ以上はないところまで伸びきった末
文字通りに弾けてしまったのだ

これもおそらく
自然現象の一つ
ヒト科の動物『ヒト』が猛威をふるい
汚染し続け

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詩 『不治の病 ~川べりの風景』

作:悠冴紀

かつて私には希望があった
同時に身勝手で冷酷だった

彼方の永遠を追うあまり
目の前の今が見えずにいた

不遇に見合う特別さを目指すあまり
平凡に見える恵みを軽んじていた

残り続けるものに執着するあまり
消えゆくものには目もくれなかった

そして多くを失った
何もないつもりでいながら
すでに手の内にあった掛け替えのないものを

警告など無意味だ
筋違いな敵意を集め
無駄に消耗するだ

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