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詩集C(30代以降の作品群)

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社会派ミステリー小説、PHASEシリーズの著者 悠冴紀が、30代から現在にかけて書いた最新の詩作品を、このマガジン内で無料公開していきます。 なお、作品の下に、一見解説文のよ… もっと読む
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#エッセイ

詩 『答 え』

詩 『答 え』

作:悠冴紀

答えなど
はじめからどこにも存在しない

誰かの導き出した明確な答えは
他の誰かにとっての問いとなる

私にも誰にも
答えようがない

その時どきに見出す小刻みの持論なら
すでに幾度となく言葉にしてきた

年月を経て
それら全てが問いに帰する

だから朽ちない
循環により生を得る

終局を迎え 落ちた木の葉は
残像だけをおいて土にかえる

土を踏みしめる誰かが樹を見上げるとき
そこに

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詩 『雪の記憶』

詩 『雪の記憶』

作:悠冴紀

雪を見るたび 私はいつも
何故だか君を 思い出す

君の喪失は受け入れない
受け入れられるわけがない

だがこの悲しみは
引き受ける
あえていつまでも
悼み続ける

忘れるつもりなど更々ない
君との日々も その別離さえも

たとえそれが楽な道でも
私は決して
忘れない

君の記憶は
心の宝

悲しみの深さは
その大きさの証

失うに堪えない関係があること自体
恵まれている証拠なのだと

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詩 『鮫 ~ペールグレーの刃物』

詩 『鮫 ~ペールグレーの刃物』

作:悠冴紀

底知れぬダークブルーの海の中から
ゆらりと立ち現れるペールグレーの刃物

隙のない冷ややかな眼差しで
静かに鋭く 水を斬る

鮫は笑わない

何者にも靡くことなく
どこにも馴染むことなく
ギラリと横切り 去っていく

その研ぎ澄まされた姿を変えぬまま
何億年もの間 君臨し続けてきた

鮫は語らない

群れを集うことなく
通じ合うことなく
音もなく忍び寄る 闇夜のハンター

決してすべ

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詩 『ZERO ~終わりの始まり』

詩 『ZERO ~終わりの始まり』

作:悠冴紀

雪が降り積もる
枝から舞い落ちた枯れ葉の上に
すべてを無に返す 白い雪が

この終わりは
旅の始まり
束の間の平穏に中断された
忘れかけていた歩みの再開

遠くへ行くよ
本来の私に相応しい彼方
どこでもない枠組みの外側へ

築き上げたものを 自ら打ち壊し
あるべき道のため 初期化する

そうして何度も 再生してきた

接した人々の瞳の中で
私の背中が消えていく

白く不透明な霧の彼方

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詩『天狼~ハティ』

詩『天狼~ハティ』

作:悠冴紀

ユグドラシルの根に湧くミーミルの泉に
ゆらりと蒼白い月明かりが浮かぶ

君は私の月だった
君の言葉と視線は
私を映し出す水鏡

誰もに見放され厭われていた私とは違い
君は輝かしい前途を期待された才ある者

何故こんな私が残り
君のような人が去らねばならなかったのか……

かつて私は
君を目指して走っていた
君の背中だけを一心に見つめ
君の賞賛を何よりもの励みとし
いつまでも追いかけて

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詩 『氷の道標』

詩 『氷の道標』

作:悠冴紀

蒼白い雪を被った鋭い針葉樹林を
私は手探りで駆けていく

どこから来たのか
どこに向かっていたのか
時折わからなくなる自分がいる

今はそれでも
走るほかない

凍てついた樹海の奥から
狼たちの遠吠えが聞こえてくる

あれは血に飢えた冬の捕食者
かつての私に 似た奴らだ

目印もない雪原の中
私には君だけが道標だった

君の雪山に語りかけ
木霊する声の反響で
己の立ち位置を知ることが

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詩 『オーロラの宿る場所 』

詩 『オーロラの宿る場所 』

作:悠冴紀

傷を秘めてきた君に
贈りたいものがある

心の一端を見せてくれたお礼に
オーロラを贈ろう

そう、夜の終わりを告げる
あの謎めいた曙の光だ

虹ほど馴染みやすくはないけれど
恐れる必要は少しもない

あれは空の贈り物
そして夜を耐えた者の中に
色彩豊かに宿るもの

冬が過ぎても 見ることはできる
君が自身の力を信じ
心の空を照らし出せば

私は彩り方を教えよう
言葉ではなく 在り方で

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詩 『黒い雨』

詩 『黒い雨』

作:悠冴紀

空が泣いている
深く深く
傷を負った空が

黒い涙を頭上から散らし
夜の大地に染みていく

雨が降る
見える者にのみ見える泥づいた黒さで
鋭い雨が降りしきる

警告のように 罰のように
汚れた大地を打ち付けて

何が空を切り裂いたのか……
昨日の不実か 明日の残酷さか

知っていたはずだ
我々は証人

忘れてはならない
加担した

雨が見える
黒ずんだ雨が

空は不気味に赤黒く濁り

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詩  『鬼~母なる地球の連環計』

詩 『鬼~母なる地球の連環計』

作:悠冴紀

人類の繁栄と 夢の果て
止め処ない人口爆発とグローバル化

広がるところまで広がれば
いずれ自壊して収縮の時を迎える

目に見えていたはずのこと
これはいわゆる揺り戻しだ

よもやこんな形でとは知り得なかったが
予感と覚悟は常にあった

これ以上はないところまで伸びきった末
文字通りに弾けてしまったのだ

これもおそらく
自然現象の一つ
ヒト科の動物『ヒト』が猛威をふるい
汚染し続け

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詩 『真 実』

詩 『真 実』

作:悠冴紀

真実とは
ただそこにあるもの
誰も守りはしないし
誰の味方もしない

そう
先人たちの言葉通り
真実とは残酷なもの

だが知りたくなかったとは思わない
それらは明日の礎になる
いつでも私に知恵をくれた

人間の判断を狂わせるのは
期待通りの優しい嘘

想定外の残酷な真実は
人を突き放しつつも 成長させる

向き合えない者はデタラメに堕ち
いつの日か
手にした全てがニセモノだと知るだろ

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詩『時計を止めて……』

詩『時計を止めて……』

作:悠冴紀

音もなく降りしきる霧雨に 大気が霞み
近くにあるものさえ 遠く感じる
世界があなたを 失ったからだろうか

あなたを想う人の数だけ
止まってしまった時計がある

あなたが旅立ったあとも
時間は無慈悲に流れ続け
何事もなかったかのように
多くの人々を押し流していく

けれど あなたを愛した人たちは
彼等の中の時間を止める
あなたをこれからも想い続けるため
その余韻を少しでも長く続かせる

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詩 『傍観者』

詩 『傍観者』

作:悠冴紀

木々がざわめき
雲が不安定に闇夜を漂う

試されているのは
君か? 私か?

この闘いに 敵はいない
明確な目標になるような 人間の敵は

実体のない幽霊を相手にしているかのよう

ある日突然襲い掛かり
姿も見せずに蝕んでいく

数えて何度目の試練だろう
これまでで一番危うい気がする
明日を脅かす類いのやつだ

いつかのように
知恵を絞って策を講じることも
技を磨いて力を身に付けるこ

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詩 『「おかえり」~君を迎える言葉』

詩 『「おかえり」~君を迎える言葉』

作:悠冴紀

「おかえり」その響きに対する憧れはなかった
今も変わらず 昔から

長い間 ずっと
帰りたい家がなかったためか

それを寂しいと 感じたためしもない

「おかえり」その一言を聞いて抱くのは
違和感のみだった

自覚はある
醒めた人間だ

無い物ねだりの甘い期待に縋るほど
ロマンチストになどなれなかった

いかにも自分らしいと
つくづく思う

誰も帰りを待たない自由を愛し
清々しい充実

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詩 『クレバス』

詩 『クレバス』

作:悠冴紀

深すぎる傷跡
凍てつく大地に刻み込まれた
底知れぬ裂け目

こんなにも深部に達していながら
もはや血も出ないほど時を刻んだのか……

遠い記憶に実感はなく
ただただ知識として残るばかり

だがそれが今ではコアを成す

地中に食い込む 深いクレバス
血は凍結して色素をなくし
もはや涙も出てこない

癒えたわけではない
傷は今も大きく開いたまま
雪解けを知らぬ冷徹さで
むしろ克明に形を留

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