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詩集B(20代の頃に書いた作品群)

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社会派ミステリー小説、PHASEシリーズの著者 悠冴紀が、大学時代から20代の終わり頃にかけて書いた(今へと繋がるターニングポイントに当たる)詩作品の数々を、このマガジン内で無料… もっと読む
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#文芸

詩 『曼珠沙華』

作:悠冴紀 赤い大地 血のような 炎のような 曼珠沙華が咲き誇る 鮮やかな赤 毒々しくも繊細で 雨ざらしの野に 凛と伸びる 曼珠沙華が萌える 混沌の記憶の中に 血のような 炎のような 一面の赤 ── 無彩色の季節を越え 今 再び 懐かしいような 初対面のような 野生の赤い曼珠沙華 私の歩む畦道に また かつてに増して鮮やかに 神秘的な赤い花一輪 ※ 2003年(当時26歳)の作品。 曼珠沙華とは、言わずと知れた彼岸花のことです。その翳のある妖艶な姿はしかし、思わ

詩 『夜 風』

作:悠冴紀 涼やかな夜風がカーテンを揺らし 祭りに賑わう人々の声を運んでくる 遠いどこかから微笑ましげに 夢を抱きしめる子供たちの声 夢を思い出した大人たちの声 遠くに灯る屋台の明かり やがて街は眠りに就き 夜風が余韻を運んでくる 微かに残る声の木霊を吸収して 涼やかな夜風が流れ込む 街を見下ろす窓から窓へ 通り抜けていく夜風に吹かれ 囁くような声の余韻に 私はそっと微笑んだ *************** ※ 2005年の作品。 ニヒルな作品が多いPHASE

詩『LYCORIS』

作:悠冴紀 私はずっと見つめていた 土の下に眠る様 僅かに芽を出し 地上の光に触れる様 私はいつでも見つめている 繊細な花びらが放射状に広がる様 その一枚一枚が萎れていく様 記憶に焼きつけ フィルムに焼きつけ 枯れ姿までも眺めている その根に命の宿る限り あらゆる瞬間に美を覚えて 力強く芽吹いて しなやかに伸び 儚くも鮮やかに開花する 優麗なるリコリスの花 海の女神の名を受けて 大地の精霊を集める花 “天上に咲く紅い花”から分化して 取り取りの輝きを得た地上の

詩『ひとり』

作:悠冴紀 私はやっぱり 「ひとり」が好きなんだなあ 今日もこのときを待っていた 街が 人々が 寝静まり 紺瑠璃の宇宙と 向き合う時間 静けさの中で 私は独り 果てしない自由を手に入れる 宇宙にそっと囁きかける 歌のような 詩のような 秘密の声を 時間の生まれる歪みを見つめ 惑星の生まれる揺らぎを知る 「ひとり」の時間そのものに酔いしれて 背筋に沿う清流の音を聴く これ以上の贅沢があるだろうか 夜の紺瑠璃 静寂のコンツェルト 宇宙との一体化 私の好きな 「ひ

詩 『北へ 北へ』

作:悠冴紀 数年前まで 南の国に憧れていた どこかの無人島で 潮の香りに包まれて 独り 日暮れを眺めたかった 今は 北へ向かっている なぜなんだろう 北へ 北へ 魅かれていく なぜなんだろう 快感だった暑い日差しが 今は苦痛 苦痛だった冷たい風が 今は快感 元居た場所からは大勢が去り 迫害者たちが待ち構えている 居場所にしたかった街は 大地に揺られて変わり果てた 今は 行き場だけを求めている すべてに理由が必要だろうか 北へ 北へ 魅かれていく 帰る場所も

詩 『救 済』 (20代前半の作品)

作:悠冴紀 私が最も救いを期待したとき 求めた救いは私に背を向けた たぶんそれで良かったんだ おかげで私は立ち方を覚えた 自分で考える機会を得た 私に最も救いが必要なとき 私はもう救いを期待しなくなっていた たぶんそれで良かったんだ おかげで私は歩き方を覚えた 一人で闘う機会を得た 私を救おうと言う者が現れたとき 私はその救いに偽善の陰を見出し拒絶した たぶんそれで良かったんだ おかげで私は生き方を覚えた 自分をダメにする存在を見抜く機会を得た 救われない

詩 『風の泉』

作:悠冴紀 ライン川のほとりで 人知れず傷付いた足を癒すライオンを見た ナイル川のほとりで 人知れず涙を拭う隼を見た ボルガ川のほとりで 人知れず疲れた翼を休める鷲を見た 望んだ勝利を得た果てに 「独り」という代償の重みを知り 目指した理想の向こう側に 壊れた文明の廃墟を見る 枠組みの中の王者たち かつてすべてであった王冠を背に 風の泉に帰り着く 雲分ける風に吹かれるとき あるがままの現在を知る 泉の水面に触れるとき 優も劣もない未来を知る かつて不落と思われた

詩 『遥かカナダに想いを馳せて』

作:悠冴紀 帰りたい あの場所へ すべてを置き捨てて 帰りたい エメラルドグリーンの湖と 歴史を物語る鮮やかな地層 透明な風と 深緑の針葉樹 生まれて初めて 憎しみを忘れた 生まれて初めて 疑いを忘れた 帰りたい カナダへ 人間が綺麗に生きられる場所など 存在しないと思っていた 浄化などさせられたら 私そのものが消えてしまうと思っていた 帰る場所など要らない そう思っていた 私は一度終わった だから始められる あの地を原点に 帰りたい あの場所へ 葡萄

詩 『自然と生命の芸術』

作:悠冴紀 我等はただ生まれ ただ生きていく 存在に特別な意味も理由もない 何の使命を課せられてもいない それでいい 大義名分を探さなくていい 白か黒かに囚われなくていい 個性と 自然と 偶然と…… 芸術だけがここにある 森の色彩に目を細め 鳥たちのさえずりに耳を傾け 木々の香りに酔い痴れ 宇宙の神秘に圧倒され 海の深みに魅せられて…… 詩を詠い 音を奏で 色を操り 時代の芸術を生み出していく 歌声は河の流れに乗り 流れは光の粒子を水面に転がし 光は影に形を与え

詩 『夜想曲 ~愛犬パテに捧ぐ』

作:悠冴紀 似た者同士の歴史がまた一つ 命の幕を下ろした 君は私の一部だった 私は君の一部だった なぜだか私には 君が安らかに微笑んでいた気がする 私の欠片を 持っていくといい 月夜に聴き入ったあの夜想曲と共に なぜだか私は 違和感を覚えない 緑の眼光が解けたその瞳は 悟り尽くしてゼロになって 死よりも先に 自然に還っていた なぜだか私には 穏やかに微笑む最期の姿が見えた気がする 出会いは ある雨の日だった 白い兄弟の中に たった一匹 黒い色をした はみ出し者

詩 『プラチナの陽溜まり』 (二十代半ばの作品)

作:悠冴紀 シーザー 象牙色の尾で光を集め 野を吹き巡る風となり 君はどこへ向かうのか 空に近い あの山の頂へ 町を見渡す あの丘の上へ 二人で通った あの秘密の場所へ どこへ行こうと 私には分かる 君の行く先々に プラチナの陽溜まり シーザー 強く 眩しく 勇ましく 囲いの檻に収まりきらない 君は太陽の子 プラチナの光に包まれて 野を駆け巡る君は疾風 どこへ行こうと 私には分かる プラチナの光を 追いかけよう 君はいつでも光の中 私達の旅に終わりはな

詩 『シベリアの狼』(⚠️解説部分後半には一部闇描写あり)

作:悠冴紀 君と二人で築いた長城を 汚されることのない記憶が流れていく 私の雪は君のために舞っていたことを 君は知っていたか 私の河は君のために流れていたことを 君は知っていたか 私は孤独が怖くなかった 私は寒さが心地好かった 人々がことごとく去った後の 廃屋に棲みついた狼のように 私は飄々と暮らしていた 私はシベリアの狼だった 無人の廃屋に好んで独り 孤独も寒さも平気だった 心にいつも君がいたから 永遠に共にあると信じていたから 私はシベリアの狼だった ─

詩 『霧は白く』

作:悠冴紀 謎を恐れ 混沌を疎み 一元論の結論に方舟を見る人々 悟りと信じて瞳を閉ざし 目覚めと信じて眠りに落ちる 意識の雲に覆われて 私の証言は呑まれていく 白く仄冷たい霧の中へ 私は一体何人 友を失えばいい 迷い込んでいく かつての友が 一人 また一人 意識の雲に囚われて シアンとマゼンタとイエローの記憶 幼き日には見えていた数多の景色 友たちの瞳に 今はもう映らない 友が眠る 私の真空に始まりをもたらした友たちが 一人 また一人 目覚めの確信を語りながら

詩『ヒグラシ幻想曲』

作:悠冴紀 さざめく草木に誘われ ヒグラシが奏でる不思議なメロディー 聖徳太子も聴いていた 夏の夜の幻想曲 暗闇に天井が溶け出し 満天の星空が視界に開ける モノトーンの部屋から コバルトブルーの宇宙へ 重力に縛られた身体から抜け出し わたしは毎夜旅に出掛ける 銀河の泡を掻き分け 宇宙のヒモを探し歩く 今日こそは見つけられるだろうか 卑弥呼が見たかもしれない宇宙のヒモを 明日こそは証明できるだろうか 思考の迷宮に陥ってしまったあの友たちから 恐れを拭い去るかもし