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砂時計

すっかり食べきって空っぽの器を、重ねて流しへ運ぶ彼女に、空のグラス二つを持ってついていく。

「いいのに、そのままで」

笑いながらそう言って、蛇口を捻って、黄緑色のスポンジにクルッと洗剤をまわす彼女。

私は空のグラスをその脇に置いて、そのまま泡泡のスポンジを操る彼女のお腹に、後ろから手を回す。

ひとつに束ねた髪に埋もれ、吸い込む。

「ねむいんでしょ?寝てていいのに」

クルクルと器を手際良く洗う手元と、少しだけこちらに傾げる頭と。

「眠れない…。 眠い」

「脳ミソが興奮してる、みたいなの、なのね」

サーッと泡泡を洗い流す彼女の動作を邪魔しないようにして、それでも、その姿勢のまま彼女を抱いて。

キュキュっと水を止めて、パタパタと手を拭いて
「寝よっか」
としっとりした手を重ねる彼女。

振り向いて、唇で迎えてくれる。


クスクス


書き上げることに脳は「終了」を認知せず、目も身体も明らかに睡眠を欲しているだろうのに、眠れないのだ。
覚醒したまま。
こういうことはよくあって、疲れている時に限って、脳は冴えたまま眠れない。

 
カーテンは開けたまま、まだ日の高いベッドにポスンと仰向けになる彼女。

唇に。首に。耳を食むと身をよじる。

やがて、息は熱を帯び、切なげに漏れる。

吸い付くようなお互いに
波打ち
両手で掬うように
汗ばむ彼女を掴む

離さなさい

彼女の「だめ」は

私を煽る





サラサラと落ちる砂時計の夢を見て

最後の粒が堕ちる前に目が覚めた。


私の髪を撫でていた彼女と目が合って、二つの目がだんだん近づいて、一つ目小僧にキスをした。

「眠れた?」

まるで夢みたいに微笑む彼女に

「まだ寝てる」

と言う私の答えを聞いたか聞かずか、今度はゆっくりと目を閉じて、すぐに、彼女はスースー寝息を立て始めた。

月明かりが差し込む。



砂漠にいけば、砂時計は永遠だろうか。

暑いから嫌だと言うだろうか

彼女は。






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の続きとしてお読みくださると、
よりグッときたりこなかったり… 笑

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