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子供の頃に出会った、不思議な猫の話【ショートショート】

子供のころ、私は猫が好きだった。

猫は自由で、何も考えずに生きる動物と思った。
私はそんな猫の自由な生き様に憧れていた。

一つだけ例外があった。それは月光の下で出会った不思議な猫だ。

名前を聞いても答えなかったので、私はその猫を月光と名づけた。

月光は普通の猫と違っていた。普通の猫は人間が何を考えているのか知らない。

でも、月光は違った。月光は私の心の中を読むことができた。

月光と初めて出会ったのは夏の夜だった。私が十歳のときだ。夜遅くまで遊んで帰ってくると、月光はいつも私の家の前で待っていた。

黙って、ひとつの木の影で。月光と話すと、何か心が軽くなる感じがした。

月光は私に多くを教えた。季節が変わること、星座が動くこと、大人になったときの喜びと悲しみ。

月光と出会ってから私は少しずつ変わっていった。猫は自由で何も考えずに生きる動物だという考えは少しずつ薄れていった。

秋がきた。木々の葉が色づき、月光も少し大人びたように見えた。私もまた、成長の一歩を踏み出していた。

ある晩、月光と一緒に川辺を歩いていた。川の水面が月光に照らされてきらきらと輝いていた。

「月光、私は大人になりたいんだ」と、私は月光に告げた。

月光は黙って私を見つめ、瞬きもしなかった。

「でも、大人になるって怖いんだ」と、私は続けた。

月光はゆっくりと私の方へ歩み寄り、その小さな頭で私の手に触れた。

冬が来た。雪が積もり、月光の毛もふわふわとした感じがした。

ある日、月光が来なかった。一日、二日、一週間。月光は消えてしまった。

私は心の中で何度も月光を呼んだ。

そして、春が来た。桜の花が咲き、新しい季節が始まった。

長い時間が経って、私は月光を忘れかけていた。

でも、ある晩、月がきれいな夜に、月光は戻ってきた。

「月光、どこにいたんだ?」と、私は尋ねた。

月光はただ黙って私の目を見た。

その目には多くの言葉が詰まっていた。

私が大人になり、多くのことを経験した。でも、月光と過ごした日々は今も心の中で輝いている。

月光が教えてくれたことは、生きるとは何か、大人になるとは何か、それはいつも私の心の中で響いている。

月光はいなくなったけれど、その教えは今も私の中で生きている。
私は月光に感謝している。月光と出会えたことで、私は私自身を少し理解することができた。

月光との出会いは私にとって、一つの大きな贈り物だった。

だから、月光がいなくなっても、その教えは忘れない。

月光がいたから、私は今、こうして生きている。

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