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虫のみる夢

7
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記事一覧

虫のみる夢 7

  2

 眩しさで目が覚めた。
 部屋は明るく、カーテンが半分だけ開けられている。窓を見て、天井を見て、そして背中の痛みで、自分がようやくソファに寝ていることに気づいた。そうだった、ソファに寝たのだ。
 あれ、でもどうして……。
 寝起きのせいで、まだ頭がぼんやりとしていた。何度か瞬きをして、本棚に置いたアナログ時計を見る。十時半を少し過ぎた頃だ。思ったよりも長く眠ってしまったらしい。
「おはよ

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虫のみる夢 6

第二章

   「私のことなんて説明するのは無理よ。だって私、私じゃないもの。でしょ?」
                   ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』より

   1
 
その日は、一日部屋に引きこもって仕事をしていた。
 ところが空が暗くなりはじめた頃、いよいよこれで最後という記事に差しかかって、唐突に書き方に行き詰まりを感じ、手が止まってしまった。感情があるなしに関わらず、こ

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虫のみる夢 5

   5

繁華街は昼時になるにつれて、徐々に賑やかさを増していった。どこを見渡しても虫だらけだ。よくよく考えてみれば、これと同じだけの人の姿をいつも当たり前に見ているのだが、それが虫に変わった途端、その数の多さに目がいくようになる。
アーケード街では、虫が虫に対して様々なものを売りつけていた。肉だったり、魚だったり、調味料だったり、種類はたくさんある。そこで取り扱っている商品は、あくまでもタ

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虫のみる夢 4

  3

 感情がなくなってから、約一ヶ月が経った。
 大きな事件は、何も起きていない。日々淡々と同じことの繰り返しで、メールを受け取っては文章を書き、打ち合わせをして文章を書き、取材に行っては文章を書いた。それらは全て担当者の手に渡り、チェックされ、レイアウトされ、ウェブや本屋を通して読者の手元に届く準備をする。
 どれだけの人がタスクの文章を読んでいるのかはっきりとはわからないが、誰かのもとに

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虫のみる夢 3

「行く?」
 タスクが言うまでもなく、パンダちゃんがそう言った。指を絡めてきて、ラブホテル街へ足を向ける。
 パンダちゃんとは、初対面の時にもセックスをした。何故かと訊かれても、答えられない。合コンのような飲み会をした後、帰り道が途中まで一緒になって、なんとなくそういう流れになっただけだった。
 パンダちゃんのことは特に好みではなかったし、誰でもいいからとにかくセックスをしたいというほど性欲の処理

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虫のみる夢 2

 気に入っていた?
 
 改めて考えると、何をそこまで気に入っていたのだろう。そこに何か特別な意味などあるのだろうか。首を傾げながらも、他にすることを思いつかなかった。
 とりあえず、着替えるためにクローゼットを開ける。
出かけるためには着替えなくてはならないが、あれこれ取り出してみても、どうにも決められなかった。どこかに出かけてどう見られたいかによって何を着るか選ぶのではなかったか。今日着る服

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虫のみる夢 1

第一章

   「なんていう静かな暮らしぶりなんだろう」
                        フランツ・カフカ『変身』より

  1

 榊(さかき)タスクはある日感情をなくした。
 朝起きたら、窓から見える快晴にも、淹れたてのコーヒーにも、お気に入りの音楽にも、心が動かされなくなった。
 きっかけは分からない。
その日目覚めたタスクは、いつも通りベッドに寝転んだままスマートフォンへ

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