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“kakkoii”の誕生 -世紀末ボーイズトイ列伝-

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20世紀末に流行した日本の男の子向けおもちゃのデザインから、新しい男性のかっこよさについて考えます。
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勇者シリーズ(7)「勇者警察ジェイデッカー」|池田明季哉(前編)

反動としての『勇者警察ジェイデッカー』 「高松勇者」の一作目となった『勇者特急マイトガイン』は、「谷田部勇者」が確立した少年とロボットの関係性を大幅に再解釈し、少年のナルシシズムを強化した。結果としてマイトガインはむしろ搭乗型ロボットの美学へと傾くことになった。 こうした美学の変化に、制作側はおそらく自覚的であったと思われる。なぜならそれに続く『勇者特急ジェイデッカー』は、少年とロボットの関係に明確に立ち返っているからだ。 『勇者警察ジェイデッカー』(1994年)は、そ

勇者シリーズ(6)「勇者特急マイトガイン」|池田明季哉(後編)

池田明季哉 “kakkoii”の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝 勇者シリーズ(6)「勇者特急マイトガイン」■搭乗型ロボットとしてのマイトガイン これまでの勇者シリーズでは、自らは戦う力を持たない地球の少年と高い戦闘力を持つ異邦人のロボットが相補的に機能する構造となっていた。玩具においても戦闘は勇者ロボの領分であるからこそ、小ロボをストレートに拡張していくかたちが採用されていた。ゆえに谷田部勇者は、少年がロボットに指示を行うことで戦いを進める――指示する主体と戦う主体を分離・

勇者シリーズ(6)「勇者特急マイトガイン」|池田明季哉(前編)

池田明季哉 “kakkoii”の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝 勇者シリーズ(6)「勇者特急マイトガイン」■谷田部勇者から高松勇者へ 前回の連載では、勇者シリーズが『勇者エクスカイザー』『太陽の勇者ファイバード』『伝説の勇者ダ・ガーン』から構成される「谷田部勇者」を通じて、ロボットを通じた少年の成熟についてひとつの美学を完成させたこと、そしてそれが玩具と子どもの遊びを正確に言い表したことを整理した。 今回は第4作『勇者特急マイトガイン』について考えていく。このタイミングで谷

勇者シリーズ(5)「伝説の勇者ダ・ガーン」(後編)|池田明季哉

池田明季哉 “kakkoii”の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝 勇者シリーズ(5)「伝説の勇者ダ・ガーン」■空と陸、そして文明の外側原点から自身を相対化しながら拡張していく形式は、この後に加わる勇者について考えることでより鮮明となる。セイバーズに後に加わるホークセイバーは、その名前通り鳥の姿をモチーフとしている。旅客機・戦闘機・スペースシャトルの並びに鳥が加わることは、一見不統一なように思われる。ところが自己の生活空間を基準とした世界の拡張と考えれば、これは別の理解ができる。

勇者シリーズ(5)「伝説の勇者ダ・ガーン」(前編)|池田明季哉

池田明季哉 “kakkoii”の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝 勇者シリーズ(5)「伝説の勇者ダ・ガーン」■憧れの器となった「隊長」『勇者エクスカイザー』『太陽の勇者ファイバード』に続く勇者シリーズの3作目となるのが『伝説の勇者ダ・ガーン』(1992年)である。勇者シリーズ全8作品のうち最初の3作品を、アニメーションを担当した監督の名前から「谷田部勇者」と分類できることはすでに述べた通りだが、『伝説の勇者ダ・ガーン』はその最終作品ということになる。 本稿では、トランスフォー

勇者シリーズ(4)「太陽の勇者ファイバード」(後編)

池田明季哉 “kakkoii”の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝 勇者シリーズ(4)「太陽の勇者ファイバード」(後編)■「武装」するロボットと脱税さて、それではモチーフについても論じていこう。今作において、ファイバードたち宇宙警備隊が身を寄せるのは「天野平和科学研究所」である。これは天野博士(ひろし、という人名であるが、おそらく学術博士でもあるだろう)によって設立された民間の研究所である。宇宙のマイナスエネルギーを観測した天野博士が、その災いから人類を守ることを目的として設立さ

勇者シリーズ(4)「太陽の勇者ファイバード」(前編)

池田明季哉 “kakkoii”の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝 勇者シリーズ(4)「太陽の勇者ファイバード」(前編)前回はエクスカイザーが確立した勇者シリーズの基礎構造について次のように整理した。前身となる『トランスフォーマーV』においてジャン少年とスターセイバーが「子」と「父」の関係であったのに対して、コウタ少年とエクスカイザーは相補的な関係にある。本稿では、「魂を持った乗り物」という想像力の特徴を、その主体の曖昧さ、中間性・相互性に見出してきた。勇者シリーズは、完全に人間

勇者シリーズ(3)「勇者エクスカイザー」|池田明季哉

池田明季哉 “kakkoii”の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝 勇者シリーズ(3)「勇者エクスカイザー」『トランスフォーマーV』では、ジャン少年という「子供」にとって、スターセイバーという人格を持ったロボットが目指すべき「大人」である、という父子の関係が確立されたことを示した。言い換えれば、これは「未成熟な主体」が「魂を持った乗り物」にアクセスすることによって成熟を試みていく構造の確立でもある。 この『トランスフォーマーV』に続いて制作されたのが、「勇者シリーズ」だ。「勇者

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勇者シリーズ(2)「ぼくらも勇者になれますか」|池田明季哉

【イベント情報】 11月25日(金)19時〜 青山ブックセンター本店(渋谷)にて、宇野常寛が浅生鴨さんと対談します。 題して、“それっぽい「いい話」と、この悪いやつを叩き潰せという怒号にあふれたこの世界を生きるために、「情報」との付き合い方をもう一度考えてみよう”。 浅生さんの新刊『ぼくらは嘘でつながっている。』&宇野の新刊『砂漠と異人たち』の発売記念イベントです。 たくさんの方のご参加をお待ちしています!お申し込みはこちら。 池田明季哉 “kakkoii”の誕生──世紀末

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勇者シリーズ(1)「勇者が剣を取る前夜、神を超える人」|池田明季哉

デザイナー/ライター/小説家の池田明季哉さんによる連載『"kakkoii"の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝』。 前回まで論じてきた、「人間と機械の関係」から独自の想像力を表現してきた「トランスフォーマー」は、1990年以降の「勇者シリーズ」にどのように受け継がれたのか。その足がかりとして独自ローカライズがなされた1980年代末の「トランスフォーマー」シリーズを分析します。 池田明季哉 “kakkoii”の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝 勇者シリーズ(1)「勇者が剣を取

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トランスフォーマー(8)「ゴリラが守った時代、ティラノサウルスの描いた夢」(後編)|池田明季哉

デザイナー/ライター/小説家の池田明季哉さんによる連載『"kakkoii"の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝』。玩具としての「トランスフォーマー」シリーズのプロダクト展開から、引きつづき時代の意志の変遷を読み解きます。 「トランスフォーマー」の歴史を塗り替える存在として、1990年代後半に登場した「ビーストウォーズ」。ゴリラやティラノサウルスといった動物モチーフがどのような象徴だったかを、アニメーション制作の背景から解き明かします。 (前編はこちら) 池田明季哉 

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トランスフォーマー(8)「ゴリラが守った時代、ティラノサウルスの描いた夢」(前編)|池田明季哉

デザイナー/ライター/小説家の池田明季哉さんによる連載『"kakkoii"の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝』。玩具としての「トランスフォーマー」シリーズのプロダクト展開から、引きつづき時代の意志の変遷を読み解きます。 「トランスフォーマー」の歴史を塗り替える存在として、1990年代後半に登場した「ビーストウォーズ」。ゴリラやティラノサウルスといった動物モチーフがどのような象徴だったかを、アニメーション制作の背景から解き明かします。 池田明季哉 “kakkoii”の誕生

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トランスフォーマー(7)自動車の挫折と動物の台頭|池田明季哉

デザイナー/ライター/小説家の池田明季哉さんによる連載『"kakkoii"の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝』。玩具としての「トランスフォーマー」シリーズのプロダクト展開から、引きつづき時代の意志の変遷を読み解きます。 自動車などの工業製品がヒーローロボットに変形する点が特徴だった「トランスフォーマー」の歴史を塗り替える存在として、1990年代後半に登場した「ビーストウォーズ」。ゴリラなどの動物から変形するというコンセプトの裏には、どんな精神性が読み取れるのか? 池田明

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トランスフォーマー(6)ロボット、自動車、都市、そして身体|池田明季哉

デザイナー/ライター/小説家の池田明季哉さんによる連載『"kakkoii"の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝』。前回に引きつづき、玩具としての「トランスフォーマー」シリーズのプロダクト展開から読み取れる意志を読み解きます。 アメリカと日本で横断展開された「トランスフォーマー」シリーズでは、同じ仕様の商品であっても、とりわけ「合体」の意味論をめぐって、双方の物語メディアでの解釈が大きく異なります。そこで表面化した、ロボットの「心」と「身体」をめぐる思想の違いとは? 池田明

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