越野 泰徳

引退しました。 今は、どこにも属さず、何者にもならず、来し方と行く末について思索してい…

越野 泰徳

引退しました。 今は、どこにも属さず、何者にもならず、来し方と行く末について思索しています。 https://twitter.com/yasunorikoshino https://www.instagram.com/koshinoyasunori/

最近の記事

『悪は存在しない』 ~ 革新的探究で生まれたシン・映画 ~

濱口竜介監督の『悪は存在しない』を見てきた。 圧巻。こういう映画大好き。もうこれは、「シン・映画」と呼んでしまってもいいのでは? 「自然と開発」という社会的課題をストーリーの柱に置く意識の高い作品として世界的映画祭受賞へのきっぷは周到に手に入れつつ、実は監督が撮りたい映画を撮りたいように撮ったなという印象。 のっけからゴダール。 音楽の使い方、タイトルの出し方、息・水・鳥・足音に和むかと思えば、耳をつんざくような物音・・・。 絵と文字と音楽と物音のコラージュ的な使用

    • 春に聴く “Both Sides Now” 。

      おはようございます。 さて、今日は “both sides” ということについて話をしようと思います。 “both sides” というのは、「両側」とか「両面」「双方」とかいう意味ですね。 さっき、着任式で、このたびこの学校に来られた先生方をご紹介しました。先生方はみな、これまでそれぞれの場所でさまざまな経験を積み、この春、この学校にやってきました。 今日、みなさんとこうして出会い、これからのステキな日々を思って期待に胸をふくらませていらっしゃることと思います。

      • ちょっと変な旅 敦賀・金沢 4

        森山1丁目。西方寺。 前にこの場所に来たのは、もう45年前。高校1年生のときだった。その頃の父は羽振りもよく、年に何回か家族旅行に出かけていた。たしか、お正月に能登にある会員制のホテルに泊まっていたんだと思う。 能登に泊まった帰り道、金沢を観光することになり、最後に寄ったのがこのお寺だった。ここにはボクのご先祖さまで、当然父のご先祖様でもある越野家のお墓があるとのことだったが、ボクだけでなく、じつは父もはじめてこの寺を訪れたのだった。 しかし、残念ながら、そのときは大雪

        • ちょっと変な旅 敦賀・金沢 3

          【3日目】2/11(日) 百萬商店 近江町市場店 → 近江町市場 → Vacation Rent 金沢 → PETRA BAKE&COFFEE → SAKE SHOP 福光屋 → 東山茶屋街 → 鮨処 あさの川 → Vacation Rent 金沢▲ 連泊は寝坊ができるからよい。せっかく金沢まで来たのに寝坊とはいかがなものかという気もちも少しはあるが、最近はそういう贅沢もいいもんだと思えるぐらい、生き方に余裕が出てきた。 しかも、起きてからはベッドの上で11時まで清水義

        『悪は存在しない』 ~ 革新的探究で生まれたシン・映画 ~

          ちょっと変な旅 敦賀・金沢 2

          【2日目】2/10(土) 敦賀09:26 --- しらさぎ1号 --- 10:48金沢 季節料理 おでん 黒百合 → 金沢海みらい図書館 → 金沢温泉金石荘 → Vacation Rent 金沢 → 尾山神社神門 → 長町武家屋敷跡 → 大衆割烹 魚吟 → バー 漱流 → だいぬき屋 → Vacation Rent 金沢▲ さて、旅行2日目は敦賀から金沢へ。 サンダーバードに乗って1時間半弱の10時48分に金沢到着。 到着後、大きな荷物をコインロッカーに入れ、11時開店と

          ちょっと変な旅 敦賀・金沢 2

          気づいたら校長になっていた

          平成29年4月7日午後4時、ボクは少しあせっていた。 4月に入ってあれこれ忙しくはあったが、あいさつまわりも、ホームページの更新も、校長会も、職員会議も順調で、校長としてのスタートはまあまあうまく切れている。ただ一つ、問題は宴会だ。 その日の夜、学校を転入・転出した教職員のための歓送迎会が催されることになっていた。 当然、開会のあいさつは校長であるボクがしなければならない。そして、どうせなら校長らしく、少しは気の利いた、人間味と教養あふれるあいさつをしたい。しかし、校長

          気づいたら校長になっていた

          ちょっと変な旅 敦賀・金沢 1

          2月に金沢へ行ってきた。 もともと「金沢へ行きたい」という明確な動機はなかったのだが、元日の地震の影響で観光客のキャンセルが相次いでいるということだし、とりあえずは、雀の涙ではあるけれど少しお金を落としてこようと思い立ち、金沢を訪れることにした。それに、北陸応援割がはじまってしまうと、人々でごった返すことになるだろうし・・・。 【1日目】2/9(金) 京都17:09 ーーー サンダーバード3号 ーーー 17:59敦賀 まるさんや → ビジネスホテル スイートピー▲ 金沢

          ちょっと変な旅 敦賀・金沢 1

          アタマのおかしな校長

          先日、ある方から「アタマのおかしな校長」と言われ、ナノ(10⁻⁹)レベルのショックを受けたのですが、よくよく考えると、かのスティーブ・ジョブズ氏も“ STAY FOOLISH ”と言っておられるとおり、世の中に変革をもたらすのはだいたいアタマのおかしな人たちだし、成果と知名度はともかく、これまでの常識にとらわれず学校改革に励んでいるつもりの私としては、ギガ(10⁹)レベルの励ましを受けたものと、大変光栄に存じている次第です。 社会は進化してきました。生物が突然変異を原動力と

          アタマのおかしな校長

          「教え込む教育」から「引き出す教育」へ

          学校は人に物を教うる所にあらず、ただその天資の発達を妨げずしてよくこれを発育するための具なり。 これは、福沢諭吉の著作『文明教育論』の中の一節です。 明治時代がはじまり、欧米のさまざまな知見を取り入れるで、“education”という英語をどう日本語に訳すかという論争が巻き起こりました。 日本の近代教育を設計した三傑による主張は次のとおりです。 大久保利通は“education”に「教化」という日本語をあてました。一方、福沢は「発育」を主張しますが、受け入れられません。

          「教え込む教育」から「引き出す教育」へ

          忍耐と時、この二人の戦士ほど強いものはないのだよ

          “忍耐と時、この二人の戦士ほど強いものはないのだよ” これは、トルストイの『戦争と平和』に出てくるクトゥーゾフ将軍の言葉です。 1812年、大陸封鎖令に従わないロシアに対して、フランス皇帝ナポレオン1世は64万人の大軍を率いて敵地に攻め入ります。一方、連戦連敗でひたすら退却を続けるクトゥーゾフ将軍は、ついにモスクワを放棄してまたも退却。しかも、その愛する街に自ら火を放って・・・。 このあとのロシアによるドラマチックな大逆転と大勝利、そこから得られる躍動感については、文庫

          忍耐と時、この二人の戦士ほど強いものはないのだよ

          定期テストをやめた理由(わけ)

          テストで頭はよくなりません。 むしろ、「勉強は正解を暗記して正確に再現することであり、とてもつらいこと」と刷り込まれてしまい、自己を磨くための本当の勉強ができない人になってしまいます。 現に日本の大人たちは、まったくと言っていいほど勉強をしません。 テストで知識は定着しません。 長期記憶として知識を定着させるには、忘却曲線を活用し、適切なタイミングで復習を繰り返すという科学的な方法が必要です。 一発勝負の定期テストでは、チャイムと同時にすべてが忘却の彼方に消え去ってしま

          定期テストをやめた理由(わけ)

          誰かが自分に重い弁当を持たせてくれることがある。

          式辞 凛として水冴ゆる賀茂川に、早春の柔らかな光射す今日のよき日、京都府立清明高等学校第七回卒業証書授与式を挙行しましたところ、○○○○ 様をはじめ、多数の御来賓並びに保護者の皆様の御臨席を賜り、卒業生の門出を祝福していただきますことに、心から感謝申し上げ、高壇からではございますが、厚く御礼申し上げます。 ただいま卒業証書を授与しました八十五名のみなさん、御卒業おめでとうございます。今日という日を迎えられたみなさんの真摯な努力に敬意を表し、在校生、教職員一同、心から祝福を

          誰かが自分に重い弁当を持たせてくれることがある。

          彼女が美しいのではない。彼女の生き方が美しいのだ。

          「彼女が美しいのではない。彼女の生き方が美しいのだ。」 今から44年前の1976年、資生堂の化粧品「INOUI(インウイ)」の発売にあたり、日本のコピーライターの草分け的存在と言われる土屋耕一が世に送り出した広告コピーです。 「化粧品」という、人を外面から美しくするツールの広告にもかかわらず、「生き方」という、人を内面から美しくするメンタリティを対峙させる、その大胆な構図の基底には、「私は他人の干渉や保護を受けず、自分の意思で判断し、自ら進んでINOUI(インウイ)を選び

          彼女が美しいのではない。彼女の生き方が美しいのだ。

          『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』 ~安らぎと回復のブックカフェ~

          カフェのある書店を開いたヨンジュと、バリスタとして雇われることになったミンジュンの二人を中心に、書店に出入りする人たちがお店の内外で考え、しゃべり、聴き、変わり、そして歩む、群像劇風の物語。 まず、この本を読むだれもが、ヒュナム洞書店の佇まいを好きになる。 おそらく店主のヨンジュにとってだけでなく、この店を訪れるみんなにとって、自分を疎外せず大切にできる雰囲気が、ここにはあるのだろう。 本があって、コーヒーがあって、二人のすべきことがそれぞれにあって、一緒に過ごしてはい

          『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』 ~安らぎと回復のブックカフェ~

          気づいたら校長になっていた episode 2

          お正月、コロナ明けで久しぶりに実家に行ったおり、ボクのことを誰だかわかってなさそうな父親とチグハグな会話を続ける勇気もなく、一人で散歩に出ることにした。 バス通りをしばらく進むと、あの場所に通りかかる。今はもうないが、かつてミッション系の幼稚園があったあの場所だ。 人生ではじめて受験に失敗したのは3歳のときだった。名前を訊かれても、年齢を訊かれても、ボクは目も合わせずジッと前を向いていた。怖かったのではない。目の前にいるシスターの満面の笑顔のその奥に潜む偽善を読み取ったの

          気づいたら校長になっていた episode 2

          ボクとピーターのエミー賞

          「アル・ユ・ストレント?」「アル・ユ・ストレント?」 1986年1月15日、カルカッタ国際空港。さっきからインド人の税関職員がしつこく質問を繰り返している。ところが、ボクには彼が何を言っているのか、さっぱりわからない。 「アル・ユ・ストレント?」「アル・ユ・ストレント?」 ・・・お手上げ状態のボクの額にいよいよ脂汗がにじんできたそのとき、後ろに並んでいたカナダ人が “ Are you a student? ” と、耳にやさしくて美しい、そしてなんとも懐かしい感じのするき

          ボクとピーターのエミー賞