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あなたの愛が重かった・・・アメリカタニワタリノキ嬢の独白

別れを決意したのは、ほかでもないの、あなたの愛が重かったから。
 
出会ったのはいつのことだったかしら。あまりに昔のことで確かな日付は覚えていないけれどこう始まったのよね。「ちょっと肩をかしてくれないかな」って。
下に住んでいるってご近所さんのよしみで困っているなら、私で役に立てるのだったら、みたいな軽い気持ちだったのよ。
それから肩だけの関係がどんどん進んで、私の居住空間までグイグイ入ってきたんだったわ。


いえ、嫌ではなかったの。だってセイヨウキヅタのあなたは素敵だったんだもの。アイビーファッションに身を固めた好青年を断る理由はどこにもないじゃない。エバーグリーンの魅力っていうのかしら。真冬でも深緑の渋い葉をまとうルックスのよさと、寒さがまだ厳しい中、花を咲かせてお腹をすかせた虫たちに蜜を与えるというキップの良さにどんどん惹かれていったのよ。

あたしはアカネ科の出で、あなたはウコギ科。北米出身のあたしとヨーロッパ、西アジア出身のあなた。全く違う私たちがミュンヘンで偶然出会って、愛が実るなんて思ってなかった、性格も生活リズムも全く違うだけど、ただただ一緒にいられるだけで幸せだったの。

ほら、これは二人で寄り添いながら見た夕焼け。幸せだったなあ。


その関係が変わったのは、なぜかしら。それはあたしが年取ったからかもしれない。あなたを支えるのが年々辛くなってきたのよ。



人はいつもこう言っていたわ。「セイヨウキヅタ(ヘデラ)は他の植物から栄養分を吸収するような寄生植物ではない。イチジク属のガジュマルのように宿主植物を絞め殺すこともない。平凡かもしれないが至って実直な好青年だ」って。

でもね、見て。あたしはそもそも小柄で身長は1メートル70センチくらいしかないの。それなのに好きだ、好きだーーーーって何重にもしがみつかれたら辛い・・・
もう無理って何度も訴えたのにあなたは聞いてくれなかった。
地球温暖化も良くなかったわ。。
これまでミュンヘンの冬って雪が降って気温が零下10何度っていう日がかなり続いて、その条件だと彼(セイヨウキヅタ)も精力がそがれてたらしいのよ。でもなまら暖かくなってどんどん成長する勢いが増しているらしい。

エネルギッシュに中年太りしていく彼に対して日に日にカサカサ、ゴワゴワしていく肌と重みでボロボロになっていくあたし。バランスが崩れちゃったのよ。
ほらみて、やせ細ったあたし(右)と私の上に乗っかっていた彼のボリュ―ムの違いを。ホンマに重いっちゅうねん!


あたしが例えば大柄の桜さんのようだったら余裕で愛に応えられていたのかもなんだけど。

いえ、なにも努力しなかったわけじゃない。関係を修復しようとカップルセラピーも試みたわ。鳥さんたちに愛の巣を作る場所を提供したの。仲むつまじい鳥さんたちを見て、私たちも気持ちを新たにできるんじゃないかと、何より私のエネルギーが戻るんじゃないかってね。

卵がかえって若鳥が巣立っていくのを見ているのは楽しかった、けどあたしの愛は戻ってこなかった・・・。

疲れ果てた自分の姿にもう耐えきれなくって、植物を世話している人たちに目で訴えることにしたの。あたし一人の力だけでは別れられない状態になってしまったから、どうか別れさせてくださいって。

引き裂かれることになって泣く彼の姿にあたしも辛かった。でもおおいかぶさっていた彼がどんどん離れていくと肩の荷がおりて、ようやくほっとできた。

無理してたんだな、よくこれまでがんばったよ、あたしって自分をほめてやりたい。これからは自分の道を歩いていくわ。これまでは彼の陰に隠れて本当は主役である自分を押し殺していたけれど、もう一花咲かせなきゃ。

本当はもっと黄色い

さよなら、あなた。
お別れに言ってくれたわね、オレの花言葉「永遠の愛」を心に刻んでくれって。キザだけど素敵。忘れないわ。

ただしお願いだからストーカーとなって追いかけてこないでね。足元にあなたの愛の残り火を感じてちょっと恐れをなしているところよ。

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