見出し画像

400円の200円より110円の55円 堀江敏幸からの手紙

ここ半年はフィクションを読む心持ちではなかったが、桜の花が咲き始めた頃に仕事からの帰り道にあるブックオフが在庫一掃の全品50%オフ、みたいなことをしていたので、また読みたくなった堀江敏幸を読み返している。

書影

読むのは何回目になるか、というこの本、『雪沼とその周辺』は雪沼という架空の土地を舞台とした連作短編で、各短編が他の短編と緩やかに繋がる(直接的なつながりではなく、噂話や思い出の場所というような事柄が他の短編にさりげなく現れる)構成がすごく見事で好きな作品です。

小さなボウリング場の最後の一日が描かれたり、居抜きで買い取ったレコードショップのオーディオ調整と店主の話があったり、自分の料理の味に自信のない中華料理屋の店主の熱帯魚の趣味の話があったりと、とても情感に溢れた話が詰まっている。

お話については読みやすいものなので、みなさんには是非手に取って読んでいただきたいが、今日は本の内容の話ではないところを語る。

先ほども述べたように全品50%オフだったその日のブックオフ高田馬場店。そこで入手したのがこの古本だが、最初は普通の棚で400円のものを見つけていた。それでも200円で入手できるわけだけど、110円の棚にも同じ作品を見つけたので、経済効率を考えて、110円の本を55円で買った。

古本屋ではこういうことはよくある。右手のやっていることを左手が知らぬということなのだろうな。同じものをよりやすく買えたわけで、ラッキー、とか思っていた。

しかし、数日後に、読み始めるとその値段の違いが明らかになった。

つまり、この写真のように赤線が引っ張ってあったのだ。傷モノとして安く扱われたということなのだろう。


いいところに赤線
これも結構いいとこを選んでいる

しかし、僕としてはこの本の中の物語の持つ質感と、この不器用な赤線が妙にマッチして、むしろ赤線など引かれていない無機質な200円よりもプライスレスな何かを受け取ることができた気がしていて、春で風も暖かくなったし、何か良いことが起こりそうだと感じてもいる、という夕方。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?