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回文ショートショート 空も飛べるかも

●回文

トンマの子も跳ぶともこのマント


●書き下し
とんまのこもとぶともこのまんと

●解説
幼い微熱を下げられぬまま、夢を持ち続けたい気持ちに正直にモラトリアムな暮らしを続ける大学生のA。自分には何か特別なものがあるはずと信じ、輝く術を求めて、何かにつけトライを繰り返していた。

彼には好きな女子がいるが、いろいろとトンマなところもあり、告白などできずに遠巻きに眺めているだけという状態が何年も続いている。

さて、時は待ってはくれず、楽しい学生時代もやがては終わりが見えてきた。そんな中、彼女は遠く離れた地元で就職が決まったのだという。

Aはトンマなゆえ就職など歯牙にもかけられず、リサイクルショップのバイトで食いつないでいくことに決まっていた。また留年も決まった。しかし、彼としては自分の思いを何とかして彼女に伝えたい。

君と出会った奇跡が、この胸に溢れてくるのを抑えきれない、といった旨をどうにかして伝えたい、ということを人生の先輩として尊敬する、リサイクルショップの店長に酒の席で相談してみた。へべれけになりながら店長は「それはお前、見る前に跳べ! ってことだな。大江(健三郎)も言ってたよ」とかアドバイス。

そうか、やはり跳ぶしかないのか。イニシエーションってやつですね! そのアクションでノンバーバルに溢れる思いを見せる、それが表現ってものなんですね! と足りないオツムでAも考えた。この溢れる思いがあれば空も飛べるはず。

思い立ったが吉日、少ない友達を介して、彼女を公園に呼び出したAは、酩酊の極み。子供の頃から大切にしてきた毛布をマントに見立て、大声で思いの丈をぶちまけながら今、大空に舞う。

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