【居酒屋かあさん】が気になる。東京都心のまごころチェーン居酒屋さんに潜入
「居酒屋かあさん」をご存知でしょうか?
もう何年も前、東京の街角で目にした「かあさん」の看板が、なぜかずっと気になっていました。
私自身、九州から上京してきた身ですが、日々の中で「故郷を感じたい」と思うことはほとんどなく、そのため実際にお店にいくことはありませんでした。ただ「なんとなく気になる居酒屋」という存在でした。
ある日、また「かあさん」の看板を目にして、ふと気づきました。
「居酒屋かあさんって、実は他店舗経営してないか?」と。渋谷でも、新宿でも、新橋でも、「かあさん」を目撃しました。
「母心」という手作り感のある打ち出しなのに、チェーン展開。ますます気になります。
居酒屋かあさんを調べてみる
「居酒屋かあさん」、HPがありました。キャッチコピーは「東京にあるもうひとつの故郷」。
居酒屋かあさんは、お店に立つスタッフの方々がオール「かあさん」で構成されています。パートさん、のような雇用なのでしょうか。コンセプトカフェのように「かあさん」の世界観にこだわっているのがわかります。
都内を中心に7店舗
お店一覧もありました。渋谷、新宿、新橋、田町など、東京を中心に7店舗あります。特に新宿だけでも3店舗と、大都市部に注力しています。
また、チェーン店とはいえ、メニューはお店(にいるかあさんたち)ごとに違っていて、それがお店の個性になっているようです。例えば…
新橋店は「おもてなし」「おもしろい」推し
新宿西口店は「遊び心」と「香取さんのミートローフ」
さらに、運営会社のページに辿り着きました。
大協ポートさん。設立は1978年です。
東京ではディスコブームが起こり、キャンディーズが後楽園でサヨナラコンサートを開催して5万人を動員し、成田空港の管理棟には過激派が乱入する。そんな激動の時代に誕生し「かあさん」という世界観を打ち立てたのでしょうか。
話を聞きたいと思い何度か電話してみたものの、つながりません。
思い切って、お店に行ってみることにしました。
一番の大箱、新宿西口のかあさんへ!
居酒屋かあさんにきました。店舗は新宿西口店。予約の電話を受けてくれた方(多分かあさんのひとり)曰く、「かあさん店舗の中で一番の大箱」とのこと。期待が高まります。
6名掛けほどのテーブルが数卓。奥は調理場となっており、エプロン(ちなみに、エプロンはかあさんの自前)姿のかあさんが作業をしています。
今回は数名と訪れたため、かあさんを思いっきり堪能します。
かあさんの「手料理」メニューが豊富
居酒屋かあさん、メニューが結構豊富です。そしてその大半が、かあさんたちが毎日手作りしているもの、とのこと。
「母の味=煮物」というステレオタイプなイメージがありますが、「ホタルイカ沖漬け」「梅水晶」などの居酒屋メニュー、「魔女つくね」というオリジナルメニューなどさまざまです。
お酒はビールや酎ハイ、ホッピーなど。そして日本酒もおすすめとのこと。
「魔女つくね」、メニューに「リニューアル」の文字があったので「何を変えたんですか?」と聞いたところ「さぁ…名前じゃないですかね」とのこと。
ゴーヤチャンプル。キクラゲにニンジンも入って、いいです。私の実家ではないけれど「家の味」がします。
どれもおいしいです。飲み屋的な濃い味付けよりは優しい。しかしお酒が進みます。「酒飲みのかあさんの晩酌」のような料理が揃います。
かあさん歴20年。プロかあさんの幸子さん
あたらめて、店内のかあさんを観察しました。
この日のかあさんは3名。洗い場メインが一人、キッチンが一人、フロアが一人。
どんどん入るオーダーに対して、「キビキビ」と動きます。
このキビキビが、めちゃくちゃ早い。無駄がありません。
店名から「笑顔」「丁寧」みたな言葉を思い浮かべてしまいますが、かあさんたちの行動は圧倒的に効率が高く、無駄が一切ありません。
よくある居酒屋さんの「オーダー入りました〜」なんてなし。言葉も最小限で、しかし各々のやるべきことを瞬時に把握し、やるべき場所に動き、行動する。少し手が空いたら別のかあさんをすかさずフォローし、店内に目を光らせる。
かあさんのチームワークが、とにかくすごいのです。
こちらのかあさんは「幸子さん」。お仕事の合間に少しお話をお聞きしたのですが、居酒屋かあさん歴20年という、プロ中のプロでした。
現在、居酒屋かあさんは7店舗ありますが、かつては他のエリアでも複数のお店を営業していたそうです。
幸子さん「私も以前は、新宿歌舞伎町店にいて、その時はここ(西口店)の倍くらい、100席くらいの大箱を回していましたよ」
居酒屋かあさんは、名前からは小さな個人店をイメージしますが、宴会メニューがあるなど、大規模な飲み会にも強いのです。
幸子さんは勤続20年ですが、異動や採用も活発とのこと。
主にフロアを担当されていたかあさんは、まだ3ヶ月。それでもこれほど見事なチームプレーをできるのは、根底に「かあさん」というスキルがあるから、なのですね。
幸子さんセレクトの日本酒をいただく
居酒屋かあさんは「日本酒」にも力を入れています。この道20年の幸子さん自らが仕入れを行っているという「かくし酒(本日の限定酒)」をいただきます。
この日は「飛鸞」「富久長」「作」の3種類でした。
どれにしようか迷っていると、母さんが「もう、これにしなさいよ」と逆に選んでくれます。いいです、私たちたちは母さんが出したいもの飲みます。
タバコは換気扇の下で
最近は、居酒屋さんといえど禁煙のお店が増えてきました。居酒屋かあさんでも、席での喫煙はNG。しかし、「換気扇の下ならOK」とのこと。
親戚にタバコを吸う人のいる家があるのですが、その家での宴会と同じ運用です。
タバコ場があると人が集まってきて、メインのテーブルとは違う話で盛り上がったりします。
ちょうど別の席の人もタバコ場にやってきて、少し話をしました。20代の男性はこの日が初の居酒屋かあさん、「彼女の父が新潟から来たので、お義父さんが好きそうな飲み屋さんを探してここにきた」そうです。ぐっとくる。
「母」だけでなく、「家族」を感じられる場所
居酒屋かあさんは、「母さんらしいコンセプト居酒屋」なんて生半可な店ではありませんでした。
かあさんたちの圧倒的なかあさんスキルの上にさまざまなメニューがあり、安価でおいしく、そして居心地良く楽しめる空間です。今回は新宿西口店でしたが、他のお店も行ってみたいです。
「小学校のとき、友達の家で晩ごはんをごちそうになったとき、友達のかあさんのつくる料理に感じた違和感と楽しさ」を、かあさん店舗間でも感じることができるでしょう。
そして、かあさんたちがぶん回す空間で、たくさんの人と食べて飲み、わいわいと楽しむ。
夏、特にお盆、田舎の親戚一同が集まる大宴会みたいです。
親戚少ないのでいったことないですが、そんな感じです。
ひとつ、心残りなのは、運営会社の大協ポートさんにお話を聞けなかったことです。
70-80年代という発展と猥雑の時代に立ち上がり、大都市を中心に「かあさん」ブランドを築き、昭和・平成・令和と3つの時代をサバイブしてきたその手腕を、もっと知りたい。
「でも、代表番号に電話してもつながんないんですよね〜」などと話していると、「ああ、じゃあ別の番号教えますよ」と幸子さん。なんと、「居酒屋かあさん」運営・大協ポートさんへの突破口を得ることができました。
後編、「居酒屋かあさんの45年──激動の時代を乗り越えたオアシス、その盛衰を聞く」は、取材が出来次第記事にします。
居酒屋かあさん、ごちそうさまでした。
次回使えるサービス券をいただきました。
もちろん、お酒を飲みます。