見出し画像

2022年11月8日の日記

 皆既月蝕と同時に、月が天王星を隠す惑星食という現象も起きていたようだ。さよなら第七惑星、442年前ぶりの別れを。
 真向かいのマンション、こぶりな月が屋上に浮かぶ。手に取ろうと思わず窓を開けたが、浮いた街の喧騒に嫌気がさして、私はまた窓をそっと締めたくなる。

 完璧なものより、少し欠けたもののほうが風情があるように見えるのは、藤原道長に対する宣戦布告か。なにひとつ不自由のない順風満帆なフルムーンはつまらない。いろいろと想像のしがいのある、半分の月がのぼる空のほうが、なんかいいじゃない。
 暮らしは良くはならないけれど、あの欠けた月の半分を探してこの浮かれた街を漂ってさ、社会的規範とは程遠いけど…こんなのどうかな…。

 月が出た出たヨイヨイ、という気分だ。コンクリートジャングルは現代の炭鉱跡、びっしり建ったビルディングに、月が浮かぶ空は今にも食われそうになっている。さて、景気よくいこう。テーブルのお惣菜に加えて、プラスもうひとつチキンでも焼いて串に刺して。
 コップに半分だけ注いだ冷酒を飲み干して、肉を焼きながら、待ち焦がれている。都会が流れるおぼろづきの夜。欠けた月が満ちる日を。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?