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【法学部の講義】「思想の自由市場」理論とツイッター

 イーロン・マスク氏がツイッター社の買収(2022/10/27)に完了してから早1か月。その後マスク氏は、大規模な人員整理や有料認証バッジ制の検討等、様々な改革を行ってきました。その中でも、特に世間の意見が割れたもの一つが、停止されていたアカウントの復活。

 実際、トランプ前大統領のアカウント復活の是非を問うネット投票では、投票総数1500万票超えの中、賛成52%と僅差で復活が決定されました。巨額の資金を投じ、このような賛否両論を巻き起こしてでもマスク氏がツイッターを改革したかったわけは何か。それは投稿内容によってはツイート及びアカウントに種々の規制をかけていたかつての運営方法に不満を持ったからだとされており、このことはマスク氏が自身を「言論の自由絶対主義者」を称しているところからも推察されます。

 そして、憲法学にもマスク氏の主張に関連する考え方があります。「思想の自由市場」というものです。

 日本国憲法において、言論の自由は21条1項により保障されています。しかしながら、例え権利があっても行使することができなければ、絵に描いた餅にすぎません。
 そこで、思想の自由市場、すなわち、「自らの意見を自由に表明できて初めて言論の自由が保障される」、という考え方が生まれたのです。

【憲法21条1項】
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

 ここで、思想の自由市場がかかる意味だとすると、ツイートの内容に応じて投稿することを禁止することは、意見の自由な表明を重視する思想の自由市場に相反することになります。このように、内容に着目して規制を加える方式を「表現内容規制」と言いますが、当該規制態様は権力により濫用され得り、一歩間違えると検閲になりかねません。それゆえ、かかる規制は合憲性判断においても厳格な基準(規制をそう簡単に合憲と認めないとする基準)が用いられます。

 このように、精神的自由権の一つである言論の自由を規制することには、極めて慎重であることが求められます。もっとも、思想の自由市場という考え方も全く完璧ではなく、問題点も存在します。

 例えば「思想の自由市場」論の根拠の信憑性に対する疑念です。当論は、資本主義における自由市場のように、自由に言論が出回れば、競争原理によりやがて正しいものだけが残ることを正当化根拠としていますが、最後に残ったからと言ってその意見を正しいとする根拠にはならないでしょう。

 また、市場経済とは違い、正しくないものが淘汰されるわけではありませんから(市場経済では売れない商品は消えてゆく)、誰かがコントロールしない限り、誹謗中傷等が削除されることはありません。

 さらには、そもそも公平な競争原理が働いているのかにも疑問が生じます。事実、インフルエンサーの方が一般人よりも発信力はありますし、財力ある者は広告を出すこともできてしまいます。

 それゆえ、分かり切ったことですが、言論のフィールドを自由放任しておけば良いわけでもないのです。

 言論の自由とは、現代の民主主義の根幹をなす極めて重要な自由です。それゆえ、決して容易に規制されるべきではありません。しかしながら、ヘイトスピーチや誹謗中傷、悪意あるデマ情報が蔓延ることも許されてはなりません。そして、それらと批判を区別する基準を立てることは機械的に処理するにしろ、人為的に対応するにしろ簡単ではありません。

 自由と規制の調和。そもそも誹謗中傷等をする人がそれを止めてくれれば手っ取り早いのでしょうが、やはり「言論の自由」とは難しい問題です。


参考:トランプ前大統領のTwitterアカウントが復活。永久停止されていたのになぜ?(ハフポスト日本版) - Yahoo!ニュース(2022/12/02)


*これは学部生が執筆した記事です。
専門的な助言を与えるものではありません。
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