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読書日記181【フリー!】

 ※ネタバレ注意です。

 岡部えつさんの作品。読書日記75に「嘘を愛する女」の読書感想文を書いたのだけど、実は小説を書かれた作者である岡部えつさんがそれに対してTwitterにコメントしてくれていた。

 「本人だ~」と思って感動したのと、ちょっと色々、ミステリーなのにネタを書きすぎてしまったのもあって、削除しようか迷っていたのもあったんだけど、作者のコメントで「よかった~」というのと、素直に書くのもいいなと思ったのでまたちょっと深く書きます。

 岡部えつさんの新作も読んでたりするのだけど、ネタ的に「エロス」と「怖い」というキーワードのものもあって、中々、感想を書くのがむずかしい。その中でも、この本は平凡な女性の仕事や恋愛について書かれている本で、題名のとおり女性の独立に対して重きをおかれている。これも面白くて一気読みをしてしまった作品。

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 緑川千春という小さい広告代理店に勤務する女性が、同じ会社に勤める年下の昭人と付き合いながら、日ごろの仕事の怱忙(そうぼう)に嫌悪感を抱きながらくらしている。昭人との交際は会社には隠しているので、会社内では同僚として付き合っている。

 昔の恋人である亮介を引きずりながら7年という年月を過ごしている。その亮介という男性は、30歳以上年の離れた男性だった。亮介に教わった「drop」というお店で飲むのが、癒しとなっている。千春は会社では中堅でキャリアウーマン。仕事はできるけど業績悪化中で雑務が増えてストレスはたまる一方だった。

 その中で等々力有美という同僚のデザイナーが早期退職をして独立をするという。自分は会社の一員として働くとは言ったものの、営業力のある明るい有美という同僚に面白くない千春。そして有美が独立をして、仕事を今いる会社からもらうことを知ったときに、千春の中で何かが弾けて、突然に会社を辞めてしまう。ここら辺の心の葛藤は働く人ならすごくよくわかる感じがあると思う。

 そこから、仕事を探したり、昭人との恋だったりとかが変化していく。今回もネタバレのようになるのはなんだけど、そこらへんの発展がすごく面白い。序盤の精神的に不安定なところや、仕事がなくなって不安定になりながらも本来の行動力を戻していく様などは、モデルがいるのかな?とおもえるほど心理描写が巧みな感じがする。広告代理店の仕事というのはどういう仕事?というのはあるけれど、そこらへんも上手く書かれていて、読む人を飽きさせない。

 無職になった千春は就職できるのか?昭人との恋の行方は?

 「drop」で知り合った、聖子という女性や崇という男性、その娘である和香などが物語に複雑に絡んでくる部分だったり、辞めた会社の同僚である上司の三上や平木、後輩の紗理奈などが物語の内容に彩りを与える。

  千春が終盤に泣くシーンがあるのだけど、そこらへんは本当に上手く表現されている。

 わたしのつぐんだ口は開くことなく、さらにきつく結ばれた。
崇は片口に酒をのこしたまま、わたしの分の勘定も支払って、帰っていった。ドアが閉まる音に背中を突かれたような気がし、あ、と思ったときは涙があふれていた。

 この前に、崇の長い会話が書かれている。その部分を受けての一文なんだけど、千春が頼りなく不安なのに空威張りをして、緊張した線をピーンと張りながら社会の荒波にもまれている中で、思いがけないことを言われて(内心、予想はしている)、線が切れてボロボロと泣き出す部分というかが、すごく上手く表現されている。女性が本当に泣く姿をみたことのある人は、想い出してうるっときてしまう。松本まりかさんなんかで映像化してほしいな、などと勝手に妄想してしまった。マスターの檜山のモデルだろうか、著者のnoteに書かれたエッセイに馴染みのマスターの話がある。


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 ストーリーテラーだなと思う反面、上手すぎて、ちょっと題材をうまくまわせてない感はある。この題材でこの文章力なら「もうすこし、もうすこしちょうだいな」と読者が物語を拡げてしまいがちになる。そこらへんが拡がるとすごい小説が読める感じがあるし読みたいと期待してしまう。(ちょっと偉そうですいません)

 ただ、こういう物語がなければ、50歳ちかい男性が、恋愛というか女性の人生を描く人生活劇をこんな感じで読むことはきっとないし、読み終わったあとに、炭酸水を飲んだようなスカっとするストーリーに昔の若い自分を思い出したりすることもないだろうなと思う。ちょっと青春時代を外れた老年の男女がが読むのにもすごく面白い作品になっている。


 

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