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ゲレンデで可愛くなれない女

庇護欲をかき立てる女性に憧れます。

 守ってあげたい
 この子は俺がいなきゃだめだ

そう思わせるか弱い女の子に幼い頃は非常に憧れていました。
今もちょっと憧れています。

お姫様だっこはその象徴です。
重い荷物を持っていたら横からサッと持ってもらって「こういうときは俺を呼べよ」とか言われて"トゥンク…"ってなりたい。
足を怪我した私を「立てるか?ほらつかまって」とか言って支えて欲しい。是非つかまりたい。
出来れば菅田将暉とか長谷川博己あたりにお願いしたい。




ところで私の父は九州生まれ九州育ちなのですが、どこで覚えたのかスキーが趣味です。
父は毎年スキーに行くために夏休み返上で働き、冬休みをガッツリ上司からもぎ取るタイプの仕事人でした。
もちろん母も旅行費を貯めるため、贅沢は敵と言わんばかりに1年かけて節約します。

そんな父は北海道が大好き。
雪質に妥協したくない!というよく分からない父の主張により、子どもの頃は北海道に年1回家族で行っていました。

初めて北の大地に降り立ったとき(当時小2)は、普段見ることのない大量の雪に大興奮でした。
雪だるまを作ったり、雪合戦をしたり、新雪にダイブしたり本やテレビの中でしか知らなかった雪遊びを堪能…
できませんでした。


 遊びに来たんじゃなかとぞ!
 スキーばせんか!スキーば!!!


父は兄と私にいわゆる雪遊びをすることを許さず、スキー板を履かせ、どれだけ吹雪こうが転んで柵に突っ込もうがスキーをさせました。

旅行は空港からホテルへ直行。観光?しないよ。
ホテルにチェックインしたら即ゲレンデ。
歩きにくいスキー靴を履いてスキー板とストックを抱えて歩くのは幼い私にはとても大変でした。

重い、持てないと言っても持ってもらえない。
タラタラ歩けば「はよ来んか!」とせっつかれる。
ギャー!こわい!と叫べば「やかましい!黙って滑れ!」と言われる。
吹雪の中でも吹きさらしのリフトに黙って乗り、もうヤダきつい、寒い、やりたくないなんて鬼気迫る父の指導の前に言える訳がありません。
雪だるま作りたい…と幼心に北の大地の厳しさを学びました。
そんな年1回のスキー旅行を繰り返すこと数年、私はそれなりにスキーを楽しめるようになりました。

中学生になった頃、あることに気付きました。

 スキーよりスノボの方がオシャレじゃない?
 ほら、スノボのが若者って感じするじゃん。
 ウェアもダボっとしてて可愛いし。

という理由から、スキーをこよなく愛する父の渋い顔を無視してスノボを始めました。
スキーとの勝手の違いはありましたが、割とすぐに滑れるようになりました。
子どもゆえの習得の早さもあったのでしょうね。
私に感化された兄も同様にスノボを始めました。



そして大学1年生のときのこと。
私は父と北海道が与えてくれた経験の弊害を初めて知りました。

サークルで広島の芸北にスノボ旅行に行くことになったのです。
大学は地元九州。学生は全員九州出身。
雪無し県民の集まり。

そう、全員滑れないんです。


先輩方は滑れます。
サークルの毎年恒例旅行なので2年生以上は大体みんな滑れます。
でも1年生は全員滑れません。私以外。


さて、この状況でゲレンデに行くとどうなると思いますか?

はい、そうですね。
滑れる人(私)は放置されます。


やだやだ怖い!
どうするのこれ!
きゃーーー!痛い!
むりむりむり!立てない!


初めてのスノボに友人達は悲鳴と絶叫が止まりません。
先輩達は文字通り手取り足取り教えています。
私はすることがないので横から時々友人にコツを教えます。

別にお近づきになりたい人がいるとか、私も誰かに構ってほしいとかじゃありません。
嘘です。構ってほしいです。寂しい。
滑れるから1人でも大丈夫でしょって思われるの悲しい。

なによりも、純粋に羨ましいなぁって気持ちになりました。
手を取って支えてもらえて、きゃーこわい!って叫んでも許されて、吹雪いたらロッジに避難して休憩。
いいなぁ、いいなぁ…。


ゲレンデで恋が生まれる理由も分かる気がする。
だって可愛いもん。
立てない!って言ってる女の子可愛いもん。
あ、俺が支えてあげなきゃってなるもん。
あなたがいないと(物理的に)立てない!って何それ確実に俺のこと好きじゃん。てなるじゃん。

認めたくない下心にまみれた自分を振り払いたくてゲレンデを1人でひたすら滑走しまくりました。

芸北の雪は優しかった。


こんな私の下心を兄に漏らすと

 教えてあげるよーってちょっとでも上から目線な男はお前イライラするだろ
 ていうかギャーギャー騒ぐだけであんまり上達しない女の子もめんどくさいよ

と非常に辛辣な意見を頂きました。
兄は大学時代、女の子とスノボに行くと父と同じようにガンガン滑らせるスパルタな男でした。
絶対モテんかったやろ。

その後も社会人になってから何度かスノボに行く機会はありましたが、やはり上手く滑れず助けを乞う女の子は可愛いなぁという目で見てました。
もはやただのフェチかもしれません。

豪雪県はこの辺の事情はどうなんですかね?
ちょっと興味あります。
みんな当たり前に滑れるイメージなんですが。




ないモノねだりのような、煩悩の削りカスみたいな話をつらつら書きましたが、今では毎年家族を北海道に連れて行ってくれた父ってすごいんだなと思うようになりました。

いや、ほんとすごい。
あれだけ行っていたのに観光名所は一ヶ所も行ったことないというのもすごい。
ホテルとゲレンデの思い出しかない。

何よりお金的にも体力的にも私は無理!!


ゲレンデで可愛くなれない女に育ててくれてありがとうお父さん!!



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