マガジンのカバー画像

ショートストーリー

106
短い創作小説を置いています。
運営しているクリエイター

記事一覧

コソ泥の独り言 ショートストーリー

ガキの頃からコソ泥の俺は、何度か強引に別荘にも招待された。三度の飯も宿泊もロハだから悪くは無いが、少々飽きた。顔なじみのお世話係も増えたが、友達にはなれなかったのは残念だったな。 この仕事を悪く言う者は多いが一度やってみるとハマる。スリルと言う意味では俺のレベルでも満足感を得られる。 制服は、コソ泥は職業ではないと言うが。 働くということは金を手に入れることなのだから同じだ。盗みを働くっていうだろ。銀行に振り込まれる数字よりも、現ブツ、現ナマを手にできるのだから喜びも大き

途中下車 ショートストーリー

最近、同じ夢を繰り返し見る。 夢は、いつも男性のナレーションから始まる。私の心情と状況を事細かに語る。でもそれは、ほとんど的外れで私は苛ついている。訴えても、いつだって彼からの返事は無い。私は彼を無視することに決めた。 気がつくと私はSLの木の座席に座っている。夜なので窓には自分のような女が映っているが、私ではない気もする。 やがて汽車は停車し、新しい乗客が数名現れた。ほとんど空き座席なのに、わざわざ私の隣に座る一匹の白い猫。 汽車は再び動き出す。 それが合図だったかの

ねんねの赤子 詩

ねんねの赤子の見た夢は 星の世界のお母さん ただいま 星の世界のお母さん 星めぐりの旅から帰ってきたよ ボクはこれからどうするの 一番好きな星に行くのです 嫌だよ嫌だ 星の世界のお母さん ずっとずっと一緒だよ 私の役目は終わったよ 行くべき場所が待っている さあ、お行きなさい 可愛い子よ 私の子よ ねんねの赤子は 夢から覚めた 優しい声が聞こえたよ 優しい手に包まれた ねんねの赤子は 忘れていった 星の世界のお母さん **************** 赤ちゃん

トイレの猫 ショートストーリー

トイレに入る。入る理由がある。 勿論、通常の使用ではない。 その女子トイレの奥の個室を七回ノックする。 それが合図。 ドアを静かに開けると、そこは確かにトイレ。『どこでもドア』などでは無い。 そのトイレには猫がいる。 住んでいるようでもあり、気まぐれに現れるだけなのかは不明。 ドアを七回ノックすると現れることが多い。 時々、言葉を交わすようになった。 誰かに飼われているのではないかと思うほど毛並みの美しい白猫。 最初は驚いたが日本語を話す猫。お互いの好奇心が高まった。

痺れる声(ショートストーリー)

最近、夜眠れない。 そんな私にピッタリだろうと貸してくれたアイテム。職場の同僚が心配してくれたのだ。 それの形状は目覚まし時計に似ていた。立方体の一面に、1から10までの数字が文字盤に円を形作って並んでいる。数字は何を表すのか不明。秒針のような細い針が一本だけ、不規則に動いている。 使い方は寝る時、枕元に置いておく。指示されたのはそれだけ。 深夜、目が覚めた。確かに2時間ほど眠ったと思うが、これだけ?とも思う。最初だし、多くは望まない方が良いのかも知れない。 時計状のも

太郎の物語(ショートストーリー)

昔々、あるところに裕福な村がありました。その村に太郎という名の青年が住んでいました。太郎は村の庄屋の息子で幸せに暮らしていましたが、父親が亡くなると小狡い叔父が庄屋となり、太郎は村を追い出されてしまったのです。 太郎がトボトボと当てもなく歩いて行きますと、川で一人のお婆さんが大きな桃を手に、なにやら困っているようでした。 太郎はお婆さんに声をかけました。するとお婆さんに、桃を家まで運んで欲しいと頼まれたのです。 太郎は大きな桃に驚きましたが、心優しい太郎は大きな桃を運んで

港のマリー 青ブラ文学部

港のマリーと噂されたのは昔の事。そのことを知っているダチももういない。 「港々に女がいてさ」そう言ってたアイツもどこかの海で藻屑になっているんだろうよ。私に待っていてくれと言っていたのも、嘘か誠かもわからない。いい加減な男だったのさ。 私は歳を重ねた。この港のあるこの街を出ることも無いままに、あっという間に過ぎていく時をただ眺めていただけ。 最近、早朝の港を毎朝歩く。昔の思い出をひとつひとつ捨てていくために。 私は、もはやマリーではない。ただの木田真理子。なんて平凡な名

赤い橋 青ブラ文学部

時々頭をよぎる光景、赤い橋。 どこかにある橋なのか。ただの空想の産物か。 ほんの一瞬しか現れないから橋の詳細は分からない。 大きな橋かと聞かれれば、違うような気もする。 では、小さな橋かと問われれば、それも違うと思うのだ。 ただ、その橋は河川や海に架かる橋では無く、木々が生い茂る森の中にあると思われる。私は獣道のような場所から赤い橋を見上げているだけ。 何度も何度も、現れる赤い橋。 私はそこに行きたいのだろうか。 原風景なのか、輪廻の中で出会ったことのある橋なのか。 いつ

この街 詩

この街に 雪がチラチラ舞い始め ずっとずっと降り続く 都会の雪の儚い夢 積もる事なく消えていく 名前のない大通り  彷徨いながら歩くだけ ひとつひとつの思い出は  虫食い穴に捨てていく 思い出達は楽しげに 私を残して消えていく サヨナラくらいは言ってよね 言えなかったのは私も同じ  都会の夜は明るいけれど 暗闇の方が多いの 流す涙は隠さず歩く 明と暗の際 探しながら迷いながら ねえ、見えるでしょ 目的地のはずだった 遥か遠くの雪の住処 見えるだけで何も無い 終わりの

結末(140字小説)

ある日、天国を見学。 案内人は醜く年老いた女。 天国には不似合い。 別の日、地獄を見学。 案内人は私好みの男。 あの案内人にもう一度会いたい。 私は生き方を変える。 悪行三昧の日々。 これで彼に会える。 そして、最後の日を迎えた。 彼に会えるのだ。 私は天国の案内人になっていた。 間違えたのは私か神か。 🐈‍⬛ 私はどっちに行くかしら。両方無いのかもしれないけれど。 全く考えられない場所かな。良いところだったらいいな。 何も無い方がすっきりするかな。 ねえ、あなたと

方言(140字小説)

どもども、めいで〜す。 みなさん、機嫌よ〜してはります〜? なんか、季節がようよう動き始めましたな。 腰の重い夏もやっとこさ帰り支度して、ほんでも名残り惜しそうに帰りはったがな。やれやれでんなあ、ほんに。尻の長い御仁は嫌われますやん、惜しまれるうちが花やて、はよ気づいてもらわんとなあ。 本物の関西人の方、ごめんなさいね。私にはどこがオカシイのかさえわかりません。関西の地域によって、関西弁は違うとは聞いていますけど。 まあ、同じ日本人ですので、たいていの意味は分かりますが。微

蛍光灯(ショートストーリー)

1Kのひどく古いマンションの一室。 ここでの生活も長くなったが、ずっとここで暮らしたいと思っている。 やはりだ。丸型の蛍光灯が暗くなり、点滅をし始めた。 寿命が近いのは覚悟をしていたが、困った。店はもう開いていない。懐も寂しい。 そうこうしていたら……、消えた。チカッとも光らない。何度もスイッチをカチャカチャしてみたが無理なものは無理。 明日までは豆電球とキッチンの照明だけが頼り。 翌朝、ゴミ置き場に蛍光灯を二本捨てた。 その時、同じような蛍光灯が二本、ゴミ置き場の奥に

アルバイトは悪魔(ショートストーリー)

お金が欲しい。もちろん生きていくために。 アパートの今月の家賃は払えそうにない状況。こんな事初めてだ。食べるものも底をついた。 あいつのせいだ。あいつは悪魔に違いない。 そう思っていたら現れた。 「なあ、金くれ」 「貸してくれ、ならわかるけど、くれって何?」 「では、貸せ」 どう言うわけかわからないが、変な男にまとわりつかれている。 お金を貸せと言うだけだが、なぜか私は断ったり、逃げたりができない。 警察に行こうとしても、足が向かない。まるで魔法か催眠術をかけられたように

怖い顔(140字小説)

怖い話を書いた事が無く、一度チャレンジしてみようと思い書き始めた。 一晩、頭を抱えたが夜が明けた。 ふと見た鏡の中で怖そうな老婆が私を睨みつけている。 鏡が故障! 鏡の設定は可愛い乙女のはず。業者を呼ぶ。 鏡の業者はお詫び方々、山姥の顔の需要に応えてくれたら高額なお礼を約束すると申し出た。 🐈‍⬛最近、白雪姫の継母の気持ちが少しわかる気もするような、しないような。鏡って正直すぎて嫌いです😮‍💨  めい #140字小説 #山姥