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シャネル N°5


 <古い記憶より> こんな事ありました

私が香水と出会ったのは中学生の頃。(1960年代)

夜のお仕事やお金持ちの女性が結構強い香りを振り撒きながら歩いているイメージしか無く、香水にそんなに興味は無かった。

マリリン•モンローとシャネル N°5 の話は私でさえ知っていたけれど、その香りがどんなものかを知る事は無かった。

ただ、きっと濃厚でキツイ匂いだろうと漠然と思っていたのだと思う。


ある日、家の近所に小さな小間物屋さんが出来た。(まだオープンと言う表現は一般的では無い時代)

お店には、糸や針等の洋裁用の小物、友達の誕生日のプレゼントに使えるような可愛らしい飾り物などが小さな店舗に詰まっていた。
奥には化粧品も置いてあったと思う。

女の子の興味をひくお店ができた事が私は嬉しかった。

早速、母に頼まれて糸を買いに、その小間物屋さんに行き、初めてお店の中に入り、母に言われた糸を買う。

会計をしている時、カウンターの隅にカゴが置いてあるのが目につく。中には形の違う可愛い小瓶がたくさん入っていた。

思わず一つの小瓶を手に取ってみる。

お店のお姉さんが、
「可愛いでしょ、それ香水が入っているのよ。いろんな種類があるよ」そう言われた。

繁々と眺めていると
「ちょっと待ってて」そう言って奥の部屋に行かれ、すぐに戻って来られたお姉さんの手には、小さな小瓶が一つ。

「つけてあげよか?」
私は大きく頷く。

耳たぶにチョチョンとつけて貰うと得も言われぬ優しい香りが広がる。思わず、息を深く吸い込む。大切に息を吐く。

こんな香水があるんだぁ、うっとり。

この初めての香水体験はずっと記憶に残る事になる。

「これ、何て言う香水なんですか」
そう聞いた私に、お姉さんは『シャネルの5番』だと教えてくれた。

私の シャネルの5番 のイメージはこうして見事にひっくり返ったのだ。

その小瓶が、いくらであったのか、試供品であったのか記憶は無いが。

そのシャネルの5番の小瓶を、大事に持って帰った。

一番に母に見せた。
「糸は?」

「アッ!」慌ててお店にとってかえす。
やれやれだ。

母と妹達にも香りのお裾分けをする。
みんなのうっとり顔に満足した。

私の香水の使い方は、夜寝る前に耳朶につける。そして布団に入る。
優しい香りに包まれて眠りの精の訪れを待つ。
至福。


これって、マリリン•モンローと同じかしら?
いや違うか。


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