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胡蝶の夢

ねぇ、と横で寝ている男が言う。
「かわいい、すきだよ。」
「そうか、そうだといいね、ありがとう。」

人にはそれぞれの線引きがある。友達と親友の線引き、家族と知り合いの線引き、恋人とそれ以外の異性の線引き。
曖昧なそれらいろいろを、お互いの線引きの違いもわからないままに、闇雲に手を伸ばしては傷つけあう。わたしたちはいつもそうだ。

わたしは、恋人以外には愛を囁かないと決めている。愛を囁かなければ体は委ねていいのか、などという倫理観は抜きにしてほしい。ともかくわたし自身の決め事なのだ。好きだ惚れた浮ついたことは恋人以外には言わない。例えそれが自己満足だったとしても。

横にいる男はわたしとベッドに潜り込む夜、何度も何度も好きだと囁いてくる。まるで子供のおまじないのようだ、叶うはずがないというのに。可愛そう、その字がそのまま当てはまるような男。
わたしにはわたしの自己満足ルールがある。でもあまりにかわいそうなものだから、不安そうな顔をする男の額にキスを落としながら言う。
「わたしも嫌いだったら何度もあなたと寝てないよ」
「そうか、そうだといいな…ありがとう」
その夜はいつもより強く抱きしめられながら2人で眠りについた。

醒めない夢などないけれど、せめて今だけは最高の悪夢を、だなんて思うのは残酷だろうか?

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