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ある犬の思い出と木彫りのこと。

垂れた耳と頭と腰に入った茶色がチャームポイントでバンダナがトレードマーク。
やや長めの白毛がきれいで、洋犬の血が混じっているのかいくぶん細身であまり尻尾を丸めない。
初めて会った瞬間にいい子だと感じたし控えめに言っても美人だと思った。
隣家の犬(幼い頃に保護されたそう)なのだが、優しく、賢くて、うちにもよく懐いてくれ何度も一緒に散歩に出かけたりした。
近づいてきて顔をすり寄せる仕草やごくたまにのことだが門を開けた自分に吠えた後「間違っちゃった、ごめ~ん」と手をなめるおちゃめな表情など、もう10年以上前にあちらに行ったのに今でも時々気配を感じるような気がすることがある。

数年前に木彫りをはじめた。
きっかけは当時病気でしばらく休んでいてリハビリ的に行っていた図書館でふと手に取ったはしもとみおさんの『はじめての木彫りどうぶつ手習い帖』
本の中の犬や猫、その他の動物の彫刻の何とも言えない優しさと暖かみ、それと静けさ。
(一番印象に残ったのは作者と一緒に暮らしている黒芝犬の彫刻とが同じ高さで見つめあっている写真)
その時はそんなふうに感じながら目を通しただけだったが、どこか気に残っていて後日借り出してきて家で見返した。
この本には作品の数々とともにタイトルのとおりこれから木彫りをしようとする人に向けた方法が丁寧に紹介されている。
作品やそれらを見ているうちに「やってみようかな」と感じてきた。
当時何をするのもおっくうでいたのにどうしてそんな気になったのか判らない。
もちろんこんなに上手くはできないだろうけどとにかくそう思った。

でも何を彫ろう…
選んだのは子供から旅行のお土産にもらった小さな寝ている象の子の置物。
かわいらしくて気に入って近くに置いていたし、病気による不眠で苦労していたこともあって自分に合っている気がした。

ホームセンターで小ぶりのブロック状の木(後から思えば彫刻に適しているとは言えないものだったが)と学校の図工で使ったような彫刻刀セットを買ってきて本にあった方法を参考に始めてみた。
実はシンプルな形だしこの程度ならわりと簡単かもと思っていたのだが、やってみると初めのうちは立方体それぞれの面に書いた下書きに沿って彫ればいいのでよかったが、いくつかの面から見て彫り進める必要が出てくる辺りから難しくなってきた。
最終的にはかなりヤスリで調整して完成したのがこれ(隣がお土産の置物)。

しばらくして次に彫ったのはラブラドールレトリバー。
まだ仕事を休んでいたが毎日ウオーキングだけはしていて、そこで見かける様々な犬達に惹かれていたし、ラブラドールは短毛なので彫りやすそう。
散歩コースにある家の、いつも庭にいて通りがかる人達からも可愛がられていて自分もよく挨拶していたラブラドールのこともあったかもしれない。
茶色い眼が優しげだった。
これは難易度が上がって、細かいところを彫るのにはじめの彫刻刀セットでは足りなくて細い刃先のものが必要になったしエネルギーもいったが、それでも少しは慣れてきたのか形ができてくるにつれ静かな楽しさがあった。
今になって見返すと…なところもあるが、ヤスリにあまり頼らなかったし本にあったドライブラシという彩色方法がわりとうまくいったように感じうれしかった。

その後しばらくして心待ちにしていたはしもとみおさんの作品展に行く機会があった。
(その頃は仕事にも復帰できていた)
本やネットで見てはいた彫刻や絵の実物の数々。
一緒に暮らしている犬やモデルに会って作ったという犬や猫に熊など触れたり撮影ができる作品があり、今にも動くんじゃないかと感じるほどなのに触れると確かに木の手触りがある。
時にはとてもざっくりとした彫り跡がそのままあるのにそれを含めて感じてくる存在感。
大きな熊に触れたりした子供達の歓声や制作風景の紹介映像の音があるのだが、そこにはやはり優しい静けさがあった。

それからずいぶんして掘りだしたのが冒頭の彼女のこと。
ラブラドールを彫る頃からいつか彫れたらとは思っていた。
本当はよくしていてそこからこちらを見る眼が好きだった寝そべった姿をと思ったのだが難し過ぎるのでシンプルな坐り姿にした。

よく出来あがりをイメージしてとかすでにある形を掘り出すと言うが、素人の自分には当然そんなものはなく、だいたいのイメージではじめその都度垂れた耳や長めの毛など難しく思いながらとにかくできるだけ近づくように彫りすすめた(それでいいのだ。たぶん笑)。
集中力がないのか性格なのかあまり一度に彫るのでなく、仕事を再開していたこともあってずいぶん時間がかかって彫り終えたのがこちら。

次は彩色。
それなりに彫れた感じがしていて色を塗ることで木の味わいを損なってしまう気がしたのと何より彩色に自信が持てずで、これはもうこのままでいいかなと思った。
だがしばらくこのままで置いて見ているうちにやはり白い毛やバンダナを出したくて色付けすることにした。
が、やはり難しく…、あっさりめのドライブラシを心がけていたのについつい塗り重ねてしまい、キャラクターのフィギュアみたくなってしまったりした。

それからペーパーをかけ少し彫りなおしたり塗りなおしたりして完成とした。
見返すたびにもう少しこうしたらとと思うのとそれなりの満足の両方だが、少なくとも彼女のことを感じる1つにはなったかなと感じている。


おわりに彼女の写真いくつかと一枚の絵を。


この絵はある方が描いたものでどの写真よりも彼女を表していると感じる。

病気でそれまで長く続いていた趣味ができなくなった。
これが新たな趣味になったのかはまだ判らない。
それでもいつかこの寝そべっている姿などのようにもう少し表せられるようになれたらと思っている。

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