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最後の流れ

また川になりたいと、願う思いを断ち切った時、永遠の静寂を得る。

何度も何度も川として、名前を変えて世界中、流れてきた我が人生。そこに幸せは無いと気付く時、これが最後と決心し、大空から舞い降りる。

大空から降りてきて、たどり着いた自分の道
ほんのわずかな道筋が、やがて集まり川になる
川になると名前が付き、自我が目覚めて私となる。

その急峻な流れは、目の前の大きな岩に激しくぶつかり、自分も相手も傷つける。

早く、強く、激しくと、先を急ぐ流れには、強い快感はあるものの、幸せは無いと気付く時。

しばらく進むと、周りを見る余裕が生まれる。ぶつかり合った岩達も、すっかり丸くなって休憩中。もう自分とぶつかり合うこともない。

一度立ち上がり、思い切り解放すれば、元の流れを変える程の、激しい力を秘めているが、流れを変える全能感に幸せは無いと気付く時。

多くを見聞きし、多くを表現して得た様々な経験は、その姿を大きく優雅で静かな流れへと変えて行く。

周囲に多大な実りを与えながら、ゆっくりと、流れていることが分からない程にゆっくりと進んで行く

常に微笑みを絶やさず、何があっても動じない。
実りを与える事で有難うと思われる条件付きの感謝にも、幸せは無いと気付く時。

大河は海へと帰って行く。それを意識しながら、名前ある川として最も静かで穏やかな時を過ごす。周囲には測り知れない実りを提供しながら。

快感に身を任せることも、自分の力を誇示することも、何かを与えようとすることも無く、ただ流れる。ただ自然の事として、恵みを与える存在に。

やがて旅は終わり、海にたどり着く。川としての名前がなくなり、一つの大きなものと一体となる。そこは、終わりではなく始まりでもない。

もう、川になろうとは思わない。

なりたいと願っていた者たちが、太陽の奇跡によって再び大空へ向かう様を、川の一生を終えて戻ってくる様を、微笑んで見守る。

ただ、そこにある、すべてとして。

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