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柔術家のためのスタミナ強化方法(柔術家の為のコンディショニングノート⑧)

「アダルト世代の柔術家とマスター世代の柔術家のスタミナの違いはなんだろうか?」

年齢からくる心肺機能の差というのが、わかりやすい答えかもしれない。

ブラジリアン柔術を始めて、スタミナ不足を実感するタイミングは、

0. アップのソロドリルで疲れた
1. スパーリングで力んで疲れた
2. 相手の動きについていけず疲れた
3. 重い相手、強い相手に抑えられ疲れた
4. 相手と拮抗して疲れた
5. 一本のスパーで疲れた
6. 連続でスパーしたら疲れた
7. 連日練習したら疲れた
8. 試合の緊張で一試合だけで疲れた
9. 試合間隔が短くて疲れた
10. 試合数が多くて疲れた


もっと具体的にしていけば、ラッソーでグリップが疲れたとかetc…

…と人それぞれだと思う。

(もっとスタミナをつけなくては)

と意気込み何かしらのトレーニングをしようとするわけだが、上の例ですら、全てにおいて実行すべきトレーニングは変わる。

なので、主観的にキツいと感じてるからといって、いきなり心肺機能を鍛える何かにチャレンジするのは少し待ってほしい。

本巻では、柔術家やグラップラーが取り組むべきスタミナ強化のトレーニングをシチュエーションごとに具体的に伝える。

この記事を読めば、スタミナという抽象的な言葉に惑わされず、自分の場合は何を強化するべきかわかる。

エネルギー生産については、前巻に書いているので、先に読んでおくと、スムーズに理解できる。


スタミナ強化のポイント

上述の疲れたと感じることに対して、

・技術
・筋力
・筋持久力
・有酸素性代謝能力(低強度〜最大)
・無酸素性代謝能力
・乳酸耐性

これらの要素を改善することでスタミナを強化できる。

一見、スタミナとは関係なさそうなことも含まれているが、押さえてほしいポイントは3つ

1.あなたのスタミナ不足の原因は何か?
2.エネルギー生産能力はあるか?
3.疲労(廃棄物)の管理はできているか?

である。

とりわけ、①スタミナ不足の原因を明確にするのが大事だ。これがわからなければ、的外れなトレーニングを行うことで時間を無駄にする。

柔術は複雑ゆえに、複数の原因が混在していることが考えられるが、的確なトレーニングにより、一つずつ改善していこう。


シチュエーション① 白帯はじめてのスタミナ強化

白帯の頃、同じぐらいにはじめた方が2人いた。その2人に負けたくない一心で熱心に道場に行っていた。

ある日、今ほど試合もなかったので、道場内マッチで競わされた。

結果はみんな1勝1敗

不思議なもので、その二人とは練習で何度もスパーリングをしていた。しかし、道場内といえど試合となると、緊張が上乗せされて、スパーとは比べ物にならないぐらい疲れた。たった2回戦っただけなのに・・・

私は、はじめてのスタミナ強化を誓い、練習後にランニングをとり入れた。

今、思い返すと

(何やってんだ俺・・・)

なかなか恥ずかしい具合で的を得ていない白帯だが、かれこれ20年近くも前のことだ。当時のスタミナ強化なんて走るぐらいしか思いつかなかった。


制限因子は何か?

三人の中では、間違いなく私が一番練習していたし、スパーリングの数も多かった。

若輩だったことを活かして、毎日練習してたわけだから、心肺機能が弱すぎたということもないだろう。

エネルギー生産能力を具体的にすると

無酸素性代謝
・クレアチンリン酸系
・解糖系

有酸素性代謝

となる。解糖系は酸素の有無によりたどる経路が変化する。
無酸素性代謝は、高強度かつ短時間の運動で最も利用されるが、有酸素性代謝の運動時間に関しては果てしなく延長できる。

エネルギー生産能力を向上させるトレーニングは、代謝をスムーズにして、生産できるATPの量を増やす方法である。

対して疲労の管理は

・二酸化炭素の排出
・乳酸の循環※
・運動効率


といったことの改善を目指す。
※乳酸は疲労の原因ではないが便宜上

私が行ったランニングは、どちらかといえば前者のアプローチであった。

MHR(Max Heart Rate)

左のピラミッドは、心拍数を下にした運動強度のモデルだが、どんなに優れた心肺機能を持っていようが、技術が未熟だと大きなスタミナロスを招く。

深夜のランニングが無駄だったとは思いたくないが、どう考えても、白帯の私がやるべきは、技術力の向上による運動効率の改善である。

シンプルに言えば、

「無駄な動きや力みが多いから疲れる」

ということだ。


解決方法

無駄な動きというのは白帯から黒帯にいたるまで、いつでも起こるスタミナロスの原因だが、経験が浅い頃の方が、その比率は高くなる。それだけ改善された時の効果も大きい。

特に白帯の方は、練習での打ち込みを増やしてみて欲しい。これは多くの先生のコンセンサスを得れるはずだ。

まずはキツくない簡単なことから始めよう。


シチュエーション② フィジカル差

昨今あまり聞かなくなったが、身体能力に差がある場合に、フィジカル差があるという言葉が使われていた。

これは、格闘技の場合、心肺機能というより、筋力やパワーの差を指すことが多い。

今なら、怪我のリスクを少なくするため、自分の階級に近い相手を選んで練習するのもありだと思うが、私が青帯や紫帯の頃は、階級に関係なくスパーリングをしていたし、階級別だけの為に試合に出るのはお金と時間がもったいないと思っていたので、無差別級の試合も好んでいた。

とはいえ、スパーリングではフィジカル差のある、自分より重い先輩に潰されるし、試合では大きい相手をテイクダウンできなかったので、ガードに引き込むもパスされるという・・・悔しさは一通り経験してきた。

当時、ハーフガーダーだった私の腕は、重い相手を止めるには弱すぎた。プレッシャーを防いでると疲れるし、抑えられて逃げようとしても疲れる。

「ゼェ〜はぁ〜」

そして、息があがる。

「軽量級がスピードで負けるなぁ!」

ってアドバイスが飛んだりしてたけど、

(無茶を言うな・・・)

デカい相手のプレッシャーを受けた状況でスピードなんか出ない。どんどん動けなくなってそのまま終わる。

あの頃の私と同じように、心肺機能を強化しようと誓った軽量級の柔術家も少なくないだろうが、ちょっと待ってほしい。

制限因子は何か?

「これは本当に心肺機能の問題だろうか?」

確かに主観的にはキツく感じているが、結果的に運動強度が上がり、解糖系がフィーバーして乳酸がパンプしてるだけで、疲れの原因はエネルギー生産でも、疲労の管理でもないかもしれない。

相手が重い場合、心肺機能や技術の問題ではなく、筋力の問題の可能性がある。

脚を制されると厳しい

パスを仕掛けてくる重量級には重力が味方する。軽量級は、大きな力を発揮したり、それを継続しなければガードをリテンションできない。

よく勘違いされるが、骨格のフレームを入れても、筋力を全く使わないというわけではない、いかに綺麗な姿勢で立とうがずっと立ってると疲れるのと同じ。関節には負担がかかるし、筋力と筋持久力は試されている。

相対的な運動強度は上がり、エネルギー生産は無酸素性代謝に傾く。二酸化炭素や乳酸が増えることで、体が酸性になり苦しくなる。

(もう無理・・・)

とパスされてしまう。

残念なことに、この頃の私は白帯の頃以上に練習していたし、走ってもいたが、大きい相手に対しては常に苦戦していた。

解決方法

結局、ウェイトトレーニングとともにライト級まで増量した過程で、筋力が伸び80%の問題は解決された。加えて、大きい相手と練習することによる怪我も減った。

『運がよかった。先生がウェイトトレーニングする人だったからだ。』

もし、階級の近い練習相手に恵まれてない軽量級の人であれば、ウェイトトレーニングを選択肢に入れてほしい。

ジュースは飲まないように

全身的に鍛えるのが望ましいが、ガードをプレイするなら、下半身に比べて上半身の筋力がネックになるので、上半身の強化が優先

技術的には、上肢に攻防が集中するハーフガードよりも、脚を使いやすいオープンガード形態の方が好ましいが、それでも上肢の筋力が試される局面はある。

重い相手やプレッシャーの強い相手を止めたい場合、フレームを入れても距離をとる為にプッシュする能力が求められるので、プッシュ、プレス系の運動を実施したい。

e.g.
・プッシュアップ
・ベンチプレス
・フロントプレス
・ハンドスタンドプッシュアップ
・ディップス
・ワンアームプッシュアップ

プッシュやフレームに関しては4巻を参考にしてほしい。

トップゲームを展開したい人は、脚力も引く力も鍛えるのを推奨する。

筋力と筋持久力どちらの問題か?

重い相手をハーフガードで止めているシチュエーションを想像してほしい。

理想的には、ニーシールドを使い脚の力で相手と距離を保ちたいが、現実的には脚が上手く機能せず、上半身の力を存分に発揮しなくてはならない場合がある。

そんな時こそ鍛え上げたプッシュ力の出番だ。

相手を力強く押すには筋力が役立ち、相手を長く止めるには筋持久力が役立つ。例えば、ベンチプレスにおいて、100kgを1~2回挙げれる人は60kgを20回ぐらい挙げれるはずだ。

筋力に問題がある場合、60kgのベンチプレスを21回、22回と増やして筋持久力を向上させても、効果的ではない。逆もしかり

筋持久力は、単一の運動または筋肉単位における持久力(回数や時間の継続)である。スタミナにおいて筋持久力が大事な理由はシチュエーション⑥で述べるが、重い相手を押し返す場合には、まず大きい力を発揮する為の筋力を向上させたい。

さて、ここからが心肺機能の強化だ。

シチュエーション③ 練習を増やしたい

人間関係を除き、柔術に関する悩みは、練習日数を増やすことで大半が解決する。

心の壁があるんだ・・・

週に1回しか練習しない人が、週2回に増やせば上手くなる。週3
回にすればもっと、もっと、もっと・・・

(もっと、練習したい。)

・・・と願えど、現実的には気持ちに体が追いつかない人もいるだろう。

私も社会に揉まれ、一時的に練習量を減らした時期があった・・・余裕ができ、いざ戻そうとすると、週に3日の練習でとてもキツく感じる。

(え?前は毎日やってたのよ?)

心の壁ができてしまい、足が道場に向かない。

練習量を増やしたい。でも、増やせない。隣のアイツは毎日練習している。トップ選手も毎日練習している。

(何が違うんだ?)


制限因子は何か?

仕事とか、家庭とか、人それぞれ問題はあるだろうが、体の能力に焦点を当てれば、心肺機能の差が回復力の差となる。

「今日も疲れたぜ・・・」

練習が終わり家に帰る。一風呂浴びて、飯を食って寝る。酒は飲まない。

スパーリング中は高かった運動強度も、日常に戻れば低強度に落ち着く。上手く副交感神経が優位になっていれば、あなたが食べたご飯も消化され栄養は血流によって組織に運ばれる。

つまり、血流の大元、究極の遅筋である心臓と血管の機能がカギだ。


心臓

上腕二頭筋や大胸筋は、見た目で発達具合がわかるが、見た目と筋力は必ずしも一致しない。

心臓に関しては、医療機関で検査でもしない限り、見た目もわからなければ、機能もよくわからない。そこが厄介だ。

心臓にも遺伝的な大小がある。

大きい心臓ほど一回の収縮で押し出せる血液が多いので、一定時間に対する心拍数(最大心拍数や安静時心拍数)が少なくなる。また男性と女性でも差があり、一般的には、男性の方が大きい。

そして、機能の違い。心臓も筋肉なので、与えられたストレスにより発達の仕方が異なる。

ウェイトトレーニングのような高強度の運動では、心臓も厚くなるような発達をする。まさにマッチョになるように・・・逆にマラソンのような低強度の運動では、心臓が柔らかく伸ばされ、大量の血液を溜めれるような発達となる。

前者の発達がすぎると、心血管系の疾患リスクが上がるので、40代以上の人には筋トレやHIITなど、高強度運動のみ行うのは推奨されない。

つまり、毎日練習してるあの人の心臓はあなたより大きいのかもしれないし、機能が優れているのかもしれないが、それは外見からは判断できない。


最大心拍数

マスター世代の柔術家がアダルト世代の柔術家(例え帯色が下でも)に圧倒されるというか、動きについていけないというのは、古今東西未来永劫変わらない真理だろう。

これは柔術に限ったことではない。

最大心拍数は、高強度運動時に1分間で心臓が収縮できる最大回数である。簡易式として

220-年齢

にて求めることができる。新生児の心臓は小さいので、平均最大心拍数が220拍/分となり、20歳になるまでに成長とともに心臓が大きくなると、心臓に血液を保持できるようになり最大心拍数が低下する。そこから(心臓の成長が終わった後)は、加齢と共に1拍/年の割合で低下する。

220-20(歳) = 200拍/分

であるが、心臓が血液を押し出す前にある程度の量を溜め込む時間が必要となる。200拍以上では血液が十分量溜まらないので、これ以上の数字にはなりにくい考えられている。

これが、この式の根拠だ。

※他にも最大心拍数を計算する式は多数あるが、正確な数値は運動試験を行わないと知るのは難しい。

よって、柔術やグラップリングみたいな高強度で動き回るような競技においては、技術や瞬発力、動体視力のほか、高強度の運動による酸素やエネルギーの需要に

『心臓の拍動が追いつかない』

という問題がある。

もちろん、これも一般的な60~70%に当てはまるというだけであって、遺伝的心臓の大きさや機能により、もっと有利になる人もいれば不利になる人もいる。ただ、通常は年齢を重ねるほど、若者と打ち合うのは厳しい。どっかのサイボーグみたいに薬でどうこうしたくもない。

厳しい局面で20歳のファイターは、200拍分の運動ができるかもしれないが、40歳だと180拍分のキャパしかない。最大心拍数には限界はあるけど、運動強度に限界はないので、あなた(マスター)が止まっても相手(アダルト)は止まってくれない。もし若い子にボコられたら免罪符として使ってほしい・・・


安静時心拍数

明日は我が身

どんなにハイレベルのアスリートでも、例外なく最大心拍数は年齢と共に低下する。

最大心拍数はトレーニングでどうこうできないが、安静時心拍数は変えることができる。

安静時心拍数は、安静時の1分間の拍動数であり、この数字が小さいということは、1回の収縮で大量の血液を体に向けて拍出しているということだ。

同じ60Kgの人でも、安静時心拍数が50拍/分の人と70拍/分の人では、
前者の方が心臓の機能が優れている可能性が高い。

e.g.
持久力トレーニングの結果、心臓の拡張能力が高まり、血液を保持できる量が増えたり、強く収縮できるようになる。

安静時心拍数は、持久力トレーニングの効果だけでなく、日々の練習からの回復目安にもなる。※心拍数の詳細は後述


血管

血管があるから栄養が組織に運ばれる。

筋トレしたら筋肉が大きくなったり強くなったりするように、血管もトレーニング次第で

・太さ
・数
・収縮伸長
・配置

などが変化する。

血管の機能が優れてる方が、栄養供給がスムーズに進む。筋肉は血管が豊富なので回復が早いが、関節だと血管の配置が無い部位があるので回復が遅い。

膝関節

e.g. 膝の半月板

内側は血流がない。外側は血流がある。

血管が配置されてない組織でも、回復させる機能はあるが、血流がある部位に比べると圧倒的に遅い。

筋肉の回復に関節が追いつかないのは設計上のバグ

心臓と血管の機能の差によって、回復力には差が出る。若い頃から競技をしてる選手はもちろん、サッカーやラグビーなど、よく走る競技の下駄を履いた人も、回復には有利である。


解決方法

特異性により、与えられたストレスに対して体は適応する。

練習量を増やしたいあなたが行うべきトレーニングはHIITのような高強度の持久力トレーニングではないし、スパーリングを多くこなすことでもない。

極めて低強度の20~40分継続できる有酸素代謝をメインとする運動だ。

心臓に運動様式は問題ではないが、血管やミトコンドリアの適応は使用部位に特異的なので、柔術の動きに近い全身運動が推奨だが、そこまでこだわらなくていい。

・床を移動する複数のソロドリルを20~40分
・ローイングマシーン
・バイクやジョギング

例えば、エビ、逆エビ、横エビ、ジャカレ、腰切り、マカコみたいなのを組み合わせて20~40分連続で行う。おそらく多くの人は苦労する。

ローイングマシーンは上半身、バイクやジョギングは下半身に末梢の適応が偏るが、心臓の適応には問題ない。

パートナーがいるなら、練習を兼ねて打ち込みを1分交代で回すのも良い。受け手も全く動かないわけではないので、トータルで20~40分継続できてればOK

ポイントは低強度を維持することだ。

心拍数を計るのが確実だが、基準値となる最大心拍数を正確に知るのが難しいので、おすすめの方法がある。

『鼻呼吸』

だ。

ソロドリルでもジョギングでもなんでも、鼻呼吸を維持することを意識してほしい。

狙いは水色ゾーン

鼻呼吸が維持できていれば、低強度のゾーンから大きく逸脱することはない。もし呼吸に口を使い出したら運動をゆるめてほしい。

(競技時間(5~10分)から離れる長時間の運動に意味があるのか?)

と疑問を持たれる人もいるだろうが、前巻の肝であった

『無酸素性代謝の延長線上には有酸素性代謝がある』

ということが答えとなる。

低強度に適応する心肺機能は高強度運動の土台(上の図)なので、ここが弱い状態で行う高強度のトレーニングの効果なんてほぼない。

もちろん、すでにたくさん練習に行けてるような人はスキップして無問題

効果は、

・練習日数を増やせるようになる
・安静時心拍数の低下

により確認できる。

ハイレベルな持久競技アスリートみたいに安静時心拍数30〜40拍/分を目指す必要はないが、理想的には60拍/分より少なくしたい。

とはいえ、多くの柔術家が望むのは、より高い強度のスタミナ強化であろう。つぎは中強度の心肺機能をどう鍛えるか見ていこう。

シチュエーション④ スパーリング本数を増やしたい

練習と練習の間だと、回復する為の時間が十分あるが、一回の練習のスパーとスパーの間だと、休息時間は短くなる。

多くの道場では、5~6分のスパーリングを1分ぐらいの休憩を挟んで、くり返してると思われる。

この時間設定が効果的かはともかく、5分 : 1分まわしで10本やれば1時間、マスター世代の試合時間にドンピシャだし、クラスの時間としても使いやすい。

見方を変えれば、たまに運動強度が上がる、少なくとも5分は継続できる強度での持久的な運動と言える。

制限因子は何か?

高強度になる局面はひとまず置いといて、柔術の5~10分という競技時間は、有酸素性代謝によるエネルギー生産としては強度が高い。マラソンみたいに2~3時間継続できる負荷ではない。

よほどな減量中でない限り、脂質や糖質(グリコーゲン)が短時間で枯渇することはなく、エネルギー生産は制限されない。体内の乳酸濃度も高まるが、急激に蓄積するほどでもない。

問題は、疲労の管理における

『酸素供給と二酸化炭素の排出が上手くできているか?』

であり、換気の能力である。


解決方法

スパーリングというインターバルトレーニングの回数を増やせば、肺や細胞での換気機能は強化できる。

「頑張って1本づつでも増やしてほしい・・・」

(何も解決してないじゃないか・・・)

と思われるだろうし、その通りだが、説明させてほしい。

練習でカバーできるゾーンにドンピシャ

ランニングやバイクで、同じような5~15分のインターバルトレーニングするのも有りだが、スパーを増やすことによる怪我のリスクを除けば、競技練習で強化できる要素をあえて他のトレーニングで代替えする理由はない。

いくつか留意点がある。競技練習がそのまま心肺機能の強化に繋がるのは間違いないが、

・実際にかかる負荷を定量化できない
・運動強度がスパーごとに異なる
・技術とのトレードオフ

この3点により、実際の効果は

『こなせるスパーの本数が増える』

という結果からしかわからない。

持久力トレーニングは、最大酸素摂取量(VO2max)に対する比率(%VO2max)や心拍数を運動強度の目安にする。トレーニングに対する心肺血管系の適応も運動に特異的なので、90%VO2maxの強度への心肺機能を強化したければ、同じ負荷をかけたい。

しかし、スパーの1本目は格下のAさん(低強度)、2本目は同格のBさん(中強度)、3本目は格上のCさん(高強度)みたいなことが普通であり、全てのスパーで展開も変わるため、心肺機能を計画的に向上させるツールとして使うのは難しい。

またトレードオフとして、技術面は疎かになる。ヘロヘロの状態で技を反復することで、下手くそになる可能性は否めない。

通常のインターバルトレーニングでは、心拍数を回復の目安とする(後述)が、スパーの休憩中にはかるのは手間なので、怪我のリスクを避け、最低限の技術レベルを担保するために、

・呼吸が鼻呼吸に戻る
・息切れせず会話できる

このどちらかが可能になってから次のスパーに行くことを推奨する。

以上の注意点はあるが、競技練習でできることを避けて、他の時間でランニングやバイクを漕ぐよりも、少し頑張ってスパーを1本増やした方が、だいぶ効率が良いように思える。

でも、

(スパーを増やせば競技レベルも上がるのだろうか?)

「間違いなく5~6分間動くのは得意になる。」

しかし、一時間ぶっ通しでスパーできる柔術家が、キツくなり負けてしまうのは、より高強度の局面になったときだ。

ということで、次のシチュエーションが柔術家の大本命だろう。

この強度の運動には多くの誤解と失敗があるので、かなり徹底的に解説した。強度も難度も高いが、実行すれば確実にスタミナが向上する。


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