エフェクターコラム番外編01 「理想の音に近づくために その1」

ギターを楽しむ、または志す人はきっと、いろいろなスタイルの夢や願い、希望を持っているはずです。「好きな曲を演奏したい」「好きなあの人みたいなギターを弾きたい」「もっとうまくなりたい」「思うがままにギターを演奏できるようになりたい」「自分で音楽を作って表現したい」そして、「理想の音を出したい」。

Signatureという単語があります。私達に馴染み深い意味で言うなら、サイン(Sign)、署名あたりでしょうか。どうあれその人独自のものを示すような意味あいです。そして音楽の世界でも当然それは存在します。

シグネイチャートーン、それは多くのギタリストの憧れる到達点。音楽を聞いた瞬間にわかる、ああ、あれはこの人の音だとわかる感じ。ボーカルで言えば替えのきかないその人の声。音楽での個性は、もちろん音色だけではありません。よく使うフレーズ、曲調、独特のリズム感、あの曲はこの人っぽい感じだな、なんてのもありますね。そしてきっと多くの人にとって、それは夢、憧れになります。

「いつかあの人みたいに…」

先程書いたように、そのためにはいくつもの要素があると思うのですが、今回はその中でもトーンについて書いていこうかなと。エフェクターコラムだし。最近高い機種のことばっかり書いてたし。

シグネイチャートーンについて説明しようと思ったらオジー様が半分白目向いてるサムネイルでした。違うの。とにかくこれを聞いてほしいんです。騙されたと思って一回お願い。

1970年の初期ブラック・サバスのライブ映像です。文句なしにかっこいいですね。そして曲の中でも特に目立つ独特のギターの音。初めてこの映像を見た時に少年は思いました。

「やべぇ、かっこいい、こんな音どうやって出してんの。」

ええ、私だけではないはずです。楽器を弾かない世界中のロック好きのオーディエンスもこのライブにもちろん熱狂したでしょう。私は残念ながらテレビの前でしたが。生で体験したかった…。

そしてまずはきっと手持ちのギターとアンプで似たような音を出そうとすると思います、ピックアップセレクターをいじってみたり、アンプのイコライザー(高音、中音、低音を決めるツマミ)やゲイン(歪み度合いを決めるツマミ)をいじったりして。パソコンのアンプシミュレーターなんかを使ってる方々もきっと同様に色々といじくってみるはずです。そして絶望します。

「あんな音絶対出ねぇ。」

いや出してる人がいるので出るはずなんですけど。そう、出るはずなんだ、なのになぜ…。そして少年少女、紳士淑女の皆様は果てなきトーンの荒野に旅立つのです。冒険のはじまりです。

音楽はある意味ではテクノロジーの産物という側面から逃げられないので、きっとあなたは雑誌やネット記事で、憧れのあの人がどんなギターやアンプ、エフェクターなどを使っているか調べます。かつて多くのジャズマンたちがクラブで麻薬の味を覚えたように、みなさんもきっと気づいた頃には機材ジャンキーになっています。部屋はギター雑誌のバックナンバーだらけになり、スマホやパソコンのブックマークは音楽系記事だらけ。

前置きが長くなってしまいました。いつものことですみません。でも料理だってデートだって下準備って大事でしょう。かの孫氏も言っております。「勝敗は、戦う前に決まっている」と。

2000年代あたりから言われるようになった「現代の三大ギタリスト」と言われている人たちがいます。もう20年前ですよね、でも当時は現代だったんです。

ジョン・フルシアンテ、ジョン・メイヤー、デレク・トラックス。

当時新しさとトラディッショナルさの同居する、ギターミュージック・ヒストリーの大河の流れをしっかりと汲んだ、なおかつ新しさを感じさせる人気ギタリストの3人を、日本ではこう呼ぶようになりました。もちろん今でも活躍している、大人気の人たちです。

そんな中、ギター・マガジン2022年6月号にて、我らが機材ジャンキーたちの熱情を、夢を本気で検証するコンテンツが公開されます。

「ジョン・フルシアンテと同じ機材を用意したら同じ音が出せるのか?」

ギタリストの楽器や機材の紹介、レビュー記事、さらに広告まで掲載している雑誌としての暴挙(歓喜!)。僕たち私達が必死に追いかけた夢の到達点とは、そして夢は叶うのか。

結論から言うと、全く同じ音は出ませんでした。かっこいい音だったけれど。

夏草や兵どもが夢の跡

松尾芭蕉の俳句ですね。

エレファントカシマシの名曲が脳内に流れます。

Tom Waitsも歌いだします。Closing Timeです。

僕たちは…これからどこへ…行けば…いいと言うのだろうか。あの夢にかけた情熱も、時間も、食費を削って捧げたお金も…。これまでたくさん書いてきたコラムも…。

つづく。


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