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この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
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渇きと潤い

渇きと潤い

急に肌寒くなった日だった。

クローゼットから引っ張り出した
ライダースは気休め程度の暖かさで
時折手首に触れるファスナーが冷たくて驚く。

帰り際、出張の北海道から
戻ったばかりの会長に会った。
小さく私の名前を呼び手招きすると、
小包をこっそり渡してきた。

「すぐに隠して!」
突然の声に身体は反射的に動く。

「航空券とか宿の手配ありがとう。
助かったわ。」

渡されたものとその理

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ヴィヴィアンウエストウッドな彼女

ヴィヴィアンウエストウッドな彼女

つるりとしたキューティクルの髪が
視界に飛び込んできた。

混み合う乗換駅でゆっくりと
私の目の前を歩くその女性は
控えめな紺色のトレンチコートを着ていた。

私は疲れた足をなんとか階段に乗せ
一段ずつ登っていく。
身体中がびっくりするくらい重い。
病欠で休んだあの子の分も
働いた所為に違いない。

足元に目をやると、
彼女のコートからはみ出たタイツに
釘付けになった。

十字架と土星のよう

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最良のひと時

最良のひと時

玄関の扉を開けると
締め切られていた空気が鈍く感じる。

右手に持っていたスマートフォンを
ベッドの上の毛布にダイブさせ
ずっしりと重いコートをハンガーにかける。

ストッキングは洗濯ネットに入れ
ネックレスは所定の位置へ。
ドレッサーからオイルのたっぷり染み込んだ
シートを取り出し、
頰の上をするりと滑らせる。

これだけで十分。
しばらくして交感神経はオフになる。

その前に明日のゴミ出

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