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あたしを作るものたち 6

うちの母は、小説だけでなく漫画も好きな人で、あたしは物心つく頃には大人向けの恋愛漫画や、鳥山明の短編集なんかを読んでいた。
今思うと、どちらも小学校低学年には早い内容というか、だいぶアダルティだったように思う。
まぁ、父もあたしが物心つく頃にはビッグコミックやスピリッツ、オリジナルなんかを読ませていたし、両親はあまりエロいものを子供から隠すという気はなかったのかもしれない。

そんな母がなぜかわざわざこんなことを言って仕事に行ったことがある。
『絶対にお母さんの部屋に置いてある漫画は読んだらアカンからね』
たぶん、小五くらいの夏休みのことだった。
読んじゃダメなんて言われると読みたくなるのが人間で、もちろんあたしは母の寝室に行った。
そこで出会ったのがあの有名な「行け!稲中卓球部」である。

知らない人のために一応説明しておくと、稲中は主に卓球部のモテない少年達が色々しでかす下品なギャグ漫画で、なんていうか、とても品がない。
容姿で人を蔑んだりもするし、セクハラもしまくるし、ちんちんちんちんと言っていたりもする。
本当に為になることなんか無いし、教育にもよくはないし、母が「読むな」と言ったのもよくわかる。
でも、とても面白い。
本当に、何度も何度も読み返しているけれども、それでも面白いのだ。

感動もすることなく、ただただ「バカだなぁ」と笑わせてくれる。
絶対に稲中の面々が自分の周りに居たら嫌だけれども、だからこそ面白い。

あの日、仕事から帰った母はあたしに「読んだ?」と聞いてきた。
「面白かったよ」と返すと「アカンて言ったのに」と言いながら母は笑っていた。
多分本当は仲間がほしかったんだろう。
結局親子で仲良く稲中を読んだ。

その稲中は借り物だったので結局2回ほど通して読んだだけだったのだけれど、あたしは稲中が忘れられずに、中学生になって弟とお金を出し合って稲中を揃えた。
最初は見知らぬ漫画にお金を出すのを渋っていた弟も、1巻を読み終わる頃にはもう次の巻が待ちきれなくなって、最終的に「○巻の○○ページの前野の台詞が~」と内容を覚え込むほどに読み込んでいた。

ちなみに、中学時代に女友達に「おすすめの漫画を貸して」と言われて稲中を貸したら「こんな下品な漫画は趣味がわるい」と、ドン引きをされたのも今となっては良い思い出である。

おわり。

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