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完全に放置された状態の極太眉毛がかなり野生的だった

 自炊でカレーをよく作る。普通に好きなのだけれど特に大好物というわけではなく、簡単で大量に作れるからである。スパイスから調合するほどの情熱はないので市販のルーをいつも使っており、バーモントカレーの甘口でバターチキンカレーを作るか、ジャワカレーの中辛で豚肉のカレーを作る二パターンに大体分けられる。後者にはハーブのオレガノをふんだんに投入する。というとなんだか玄人っぽいが、このオレガノは結構「それっぽい」雰囲気をお手軽に演出してくれるので便利である。額に赤い点さえ書けば立派なインド人の出来上がりみたいな感じだ。オレガノはトマト系のパスタに入れても効果絶大で、下手に塩味を足さなくてもオーガニックな奥行きが生まれてナマステである。具材にはベーシックにジャガイモ、玉ねぎ、人参を使う。ちょっと焦げるくらいまで玉ねぎを事前にしっかり炒めておくのがポイントで、あとはどんな順番でどれだけの時間煮込もうがもうあんまり関係ない。変に強火にしてルーそのものを焦がさない限り失敗する方が難しい。作ったその日のうちに食べても良いが二日目に上手くなるのが基本で、三日目にはカレーうどんになるのが応用である。

 以前の職場の同期にカレーをスパイスから作るインド人みたいな男がいた。社員寮の彼の部屋は訳の分からないスパイスのオリエンタルな匂いで充満しており、なんというか顔の造形まで本当にインド人ぽかった。完全に放置された状態の極太眉毛がかなり野生的だったので「整えてみる?」と一度訊いてみたら承認され、僕は仕事中にハサミとピンセットで施術を行った。なぜそんなものがオフィスにあったのか、なぜそんなお遊びが堂々と出来たのかはよく覚えていない。ビジュアル系的な冗談みたいに細く角度の付いた眉毛にしてやっても良かったのだけれど、割と真剣にナチュラルな形に整えると平井堅みたいになった。彼は結構感動していた。なんならそれ以降、自分で眉毛を整える用具を買って手入れするようになったくらいだ。
 そういえばインド人のハウスメイトがいた事がある。オーストラリアのメルボルンに住んでいた頃、半年以上滞在していたシェアハウスに四十代くらいのインド人のおじさんが居た。カレーを作っているところは見かけなかったのだけれど、ギリギリ合法みたいな強烈な匂いがキッチンから漂ってくる度に誰が料理しているかすぐに分かったものだ。一度黒魔術的な濁ったスープを勧められて断り切れず一口だけ飲んだら、想像した十倍くらい不味かったので謝罪しながら残したことがある。僕はあの時の恨みをまだ忘れていない。

 カレーに関連する記憶をランダムに辿って書いてみたら、全くまとまりのないカオスな記事になった。何を適当にぶち込んでも成立するカレーとは全く正反対である。


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