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封鎖

 現在、僕はステージ4のロックダウン下にあるメルボルンに住んでいる。午後八時から午前五時までの外出は禁止され、食料や生活必需品の買い出しは一世帯に付き一人が一日一回のみで自宅から五キロ圏内で済ませなければならない。レストランやカフェはデリバリー・テイクアウトのみの営業で、娯楽・文化施設の類はあらかた閉まっている。僕は極端なインドア派だとずっと自負してきたのだけれど、さすがにこのような状況下に置かれてみるとストレスを感じる。数あるオプションの中から家に篭るのを選ぶのと、唯一の選択肢として家に篭るのとでは意味が違ってくる。同じ靴を買うにしてみても、靴屋で千足の中から選ぶのと服屋で数足の中から選ぶのとでは満足度が変わるような感じだ。ここ一週間くらいで、僕は『ブレイキング・バッド』をシーズン3まで一気に観終えた。そして、その副作用として訳の分からない犯罪に巻き込まれていく長い夢を一度見た。
 僕が今住んでいる家はシェアハウスで合計五人のハウスメイトが居る。建築現場で働いているオーストラリア人のおじさんは、休日になるとアンプを通してギターを弾き、この前はレッチリの『カリフォルニケーション』の冒頭のアルペジオを延々と練習していた。近くの大学で講師をしているおそらくインド系と思われるおじさんはほとんど家に居ない。在宅で人材派遣のテレワークをしている三十代前半くらいのイラン人青年とはよく雑談を交わし、筋トレの用具を一緒に使わせてもらっている。それからスペイン系とアジア系の二人の若い女の子が一部屋を共用しているのだけど、ただの友達同士なのかカップルなのかはさすがに聞けていない。アジア系の子の方が一度ドーナツを二個くれた。

 先日、僕は国際運転免許証を現地の免許証に書き換えるのに必要な証明書を発行するため、日本領事館に行くつもりだった。しかし、このご時世なので事前に電話で問い合わせてみると、案の定郵送での手続きを推奨された。パスポートと免許証のコピーを取るために近所の事務用品店に出向いたところ、入り口の警備員に止められてオンラインでデータを送るように言われた。僕はスマホでパスポートと免許証の写真を撮り、そのデータを事務用品店のオンラインフォームに送り、翌日に店舗で印刷された物を受け取り、その足で郵便局まで行って書類を速達で日本領事館に送った。最初からデータを領事館に送れば手間が省けるのだけど、それを問い合わせたら郵送するように頼まれた。日本人はどの国に住んでいようが日本人である。書類を送った二日後に電話があり、二週間後に領事館まで手続きに来るように言われた。なぜか証明書は郵送できないらしく、手数料の支払いもカードは不可で現金のみの対応とのことだったが、別段驚きもしなかった。という訳で、僕は現地の免許証を取得するために必要な証明書を取得する約束を取り付けることに成功した。先はまだ長そうである。

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