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コメダ珈琲の片隅で


昨日の夜、思い立ってスマホのメモを使って雑に管理している今日の予定欄に「コメダのモーニングに行く」を入れた。私がこの予定をわざわざメモに記入する時、大体心の調子が悪い時と相場は決まっている。コメダ側にしてみれば「ちょっとあんた、冗談じゃないよ」案件かもしれないが、一度知ってしまったが最後あの居心地の虜になってしまったのだ。何を隠そうこの文章もコメダのおひとり様用席で打ち込んでいる始末。あいしているよ、コメダ。米田と書いてヨネダでもマイダでも愛したに違いない。そんな居心地の良さがコメダにはある。

先日、退職を決めた。

退職の理由や経緯に関しては、まだ職場を去るまでにまだ少し時間があって、全てが終わってからでなくては上手く自分の中で整理出来なさそうなのでいつか機会があれば書きたいと思っている。
まぁ、別に今書いてもいいんだけど、今はありとあらゆる弊社内の人間に怒っているので力の限り脳細胞フル動員の罵詈雑言を並べ立てそうで私はそれが恐ろしい。攻撃力の高い攻撃は、その力の強さによる反動も強くなるものだ。因みにこの原理はポケモンで学んだ。
しかし、退職日までに許し難い何かがおきてぷっつんキレてしまった日にゃあ2〜3ターン暴れまくって、その後混乱状態に陥りながらも確実に相手に狙いをすまして私は頭突きを繰り出すのだと思う。私はそういう人間だ。

自分の心と身体を守るために、すっかりこうなってしまった。
こうして全てを社会のせいにして抗いたいし、逃れたいし、生き延びたい。

因みにオシャレなジャズが流れる居心地の良いコメダで生む文章では到底ない自覚はある。ちゃんとある。そこんところが私のチャーミングなポイントなので、皆さんお見知り置きを。

退職を決めるまで、決まるまでの間、常にぎっしりと多種多様の最悪があったのだが、退職が決定した今少し気持ちが楽になった。

暮らしにおいては洗濯が出来たし、掃除も出来た。そこにあるのを認識していながら畳むことや洗うことの出来なかった有象無象が片付いていくのはやはり気分がいい。
個人的大発見だったことは何故かある日突然に生活する中で食器を洗うことが困難になり、食べてすぐにゆすいで捨てられる紙皿と割り箸でここ数週間生きていたものの、久々にちゃんと皿や小鉢におかずや料理を盛って食べたら内容は変わらないのにすごく美味しく感じたこと。満たされたこと。食べることも料理も好きな私が私に「ありがとう」と言う声を聞いた気がした。
次に後回しにしがちであった洗濯に関しては、母に貰ったはいいが棚に手を伸ばして取ることさえ億劫で使わないままでいたアロマジュエルなんか使っちゃったくらいにして。勢い余って入れすぎたのか、取り出した衣類から数粒溶けずに残ってたものが床に落ちたりもしたがなんかそれも許せちゃったりもして。

ここ最近、最近といっても数年は、こんな些細なことも許せない日が多かった。ひょんなことで傷付き、ちょっとのことで心が折れる日が増えた。

脱衣場に置いた洗濯機前、床に数粒落ちたアロマジュエルのピンクの粒をその場ですぐに拾ってゴミ箱に捨てることができた時。もしかしたら私はまだ助かるところに居るんじゃないかと思えた。ひょっとしてまだやれるんじゃないかと。大袈裟に聞こえるかもしれないけれど、そう思えた。私にとっての小さな、しかし確実な救いだった。

コメダのモーニングに行こうと思えたのも心が不調とかではなくて、その延長線の出来事なのかもしれない。

人間ってそういうもんだと思う。疲れている時、打ちのめされている時は何かひとつでも嫌なことやつらいことが起きると徹底的に全てがおしまいに思える。
逆にそんな中でも他人から見れば出来て当然かもしれない、大したことはなさそうな小さな小さな出来事だって、心の天気がどうあれ問答無用で続く暮らしの中で「お待たせしました!満を持して登場、長らく出来ずにいたあれが出来ちゃうすげぇ私!!」というテンションでスポットライトをカッと当ててさえやれば輝き出す。
心のブレーカーはすぐ落ちるくせに復旧までには大層時間を要する厄介な代物だ。ライトを当てた傍からバーンッと落ちる可能性もあるが、それでもいい。それでもいい、心のブレーカーが落ちて真っ暗闇の中、自分の都合ばかり最優先の連中にあちこちから理不尽に蹴倒される思いはもうしなくていいんだから。

そんなこんな綴り始めて大体一時間、コメダ珈琲店は賑わっている。
リモートのお仕事をしていると思われるおじさんはパソコンと睨めっこしながら時々深いため息をつきながら天を仰いでいるし、同じ並びのボックス席に座っているおばさん達は機種変更の仕方がさっぱり分からねえという話題ひとつでこの一時間突っ走り続けている。この一時間を使えば最寄りの店頭で即解決だろうに、そうはいかない並々ならぬ何かがあるのだろう。五分に一回はガハハ!!と豪快な笑い声がこだまする。私もかくありたいものである。

今日、コメダ珈琲に来店してモーニングが食べられて良かった。バターが塗られたさくさくの厚切りトーストに、たまごペースト。小倉にしようか、たまごにしようか。別料金出して半分をたまご、半分を小倉にしてしょっぱいも甘いも独り占めしちゃおうかなぁなんて考えられて良かった。私が帰ってきた、という感じがする。トースト食べながら半べそ書いてる女を見掛けたなら、高い確率でそれは私だ。哀れまずに祝福してほしい、コメダ珈琲の片隅で。

そんなことを言っていたら、機種変更で盛り上がる一行が「auはさぁ!!まず響きが良くねえわな!!」ととんでもない難癖をつけ始めたので、爆発するような笑い声の爆風に吹っ飛ばされる前にそろそろ帰ろうと思う。

お陰様で晩御飯のおかずが一品増えたり、やりきれない夜にハーゲンダッツを買って食べることが出来ます