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恋にぴったりな季節

ジャンル:恋愛
文字数:3200字程度の小説です。


恋にぴったりな季節

 冬は恋をするのにぴったりな季節だと思う。クリスマスもお正月も、バレンタインも。全部、恋にぴたりとハマる。

 寒いっていうのもさらに良い。手を繋げば暖かさにますます君の虜になってしまうし、君が頬を赤く染め上げてるのが可愛くも見える。

 良い点を脳内でつらつらとあげながら、変わらず冬並みに冷たい君を睨みつける。君はむっとした表情で私を睨み返す。口元はマスクで見えないけど笑ってる気もする。

「なんだよ」
「冷たい、冬みたいに冷たい!」

 君の冷たい視線を非難すれば、ちって舌打ちなんかも聞こえた気がする。気のせい気のせい。雪のせいだ。

 頭がぼぉーっとするのも、ほっぺが赤く染まるのも全部雪のせい。クリスマスなんてくそくらえ。

 あ、本音が出ちゃった。まぁ心の中くらい、いいよね。

「はいはい、ほらおいで」

 パッと広げられた腕の中に、遠慮なく埋まれば暖かかい。人間の体温が一番いい暖房器具だと思う。クリスマスなんてくそくらえなんて嘘です。大好きです、だから、この想いだけ伝えてほしいです。クリスマスってそういうものでしょう?

 ホットワインも、キラッキラに飾り付けられたサンタさんも、非日常感があるからきっとこんなに優しいんだ。だから、クリスマスなんて大好きです。

 だから、お願い。どうか、素直な私の気持ちを、私を抱きしめてる彼に届けてください。

 あと十日後くらいまで迫ったクリスマスに思いを馳せてれば、真上から白い吐息。

「満足した?」
「まだ、もうちょっと」

 そう言いながら彼の素肌に冷え切った手をくっつける。チッて今のは確実に聞こえた。やっぱり、被害妄想じゃない。

 私たちは恋人じゃない。ただの友人以上、恋人未満。だからこんな至近距離でくっついてるのもおかしいな話だし、彼が甘んじで受け入れてくれてるだけありがたい。それなのに、私は、彼が好きで、吐き出しそうなくらい愛が胸の中から溢れてる。

「もういいや、ありがと。冷えちゃった?」
「リョウコのせいでばっちりと、早くあったかいとこ行こう」

 すっと離れた私の右手を、自然に握りしめて歩き出す君の後ろを追いかける。繋がれた右手はまだ冷たいはずなのに、溶ける寸前のマグマみたいに内側から熱が広がっていく。

「あのさ」

 耐えきれなくなって言葉を吐き出せば、ぴたりと歩みを止めて私の方を向き直す。ムッとした顔を作っていても、内心は別に苛立ってないことに気づいてしまう。そっか、私、君の気持ちまでこんなに分かるようになっちゃったんだ。

 こんなに好きで好きで、全部こぼしちゃいそうなんで思ってたくせに。思ったよりも君の気持ちを受け取っていたことに気づいたよ、今。

「なに」
「いつになったら私、君の大切な人になれるのかな」
「は?」
「は? はひどくない? は? はだめだよ、傷つく」

 はぁあああああっと長くわざとらしく吐き出されたため息を吸い込めば、もっと君の気持ちが分かるかな。なんて変態くさい考えを遮るようにマフラーを口元まで上げる。

「本気で言ってる?」
「何その言い方」
「クリスマスどうするって話してたじゃん?」
「え、急に変えないでよ話を」
「変えてない、つーか寒いから先にカフェとか入ろう。こんな寒い中でしたくない」

 ツンとした言い方に流石に私、泣いちゃうぞ? いい歳こいた女が手を繋いだままピーピー横で泣き喚くぞ、恥ずかしいだろう? だから、優しくしてくれとまでは言わないけど。

 まぁ心の中で思うのくらいは自由でしょ、なんて言い聞かせて彼の眉間を睨み付ける。気にも止めないで、私の右手を引っ張ったまま薄く氷の張った道をずんずんと歩いていく。ここで答えてくれる気は、もうないらしい。

 好きだよ、さっきのだって私かなり頑張って言葉にしたんだけど。

 ねぇ、なんで答えてくれないの。

 なんではぐらかすの。

 もう一度の勇気は流石になくて黙りこくって、手のひらに強く力を込めた。

「黙らないでよ、なんか俺が悪いことしたみたいじゃん」

 君が悪いよ、え、そうだよね? 私悪くないよね? 君にひたすら片想いしてる私が悪いのかな? そっかそっか、私が悪いってことか。いや、もういいよ、期待するだけ痛むなら期待なんてしたくない。

 今すぐに、この繋いだ手を振り解いてしまいたいくらいに痛いんだよ。それでも、出来ないのはやっぱり君が好きで。いろんな想いがあるのに、脳内を埋め尽くすのは「君が好き」という一言だけなんだよ。

「予約してたカフェ、ここ。リョウコが好きそうな、ホットココアあるんだよ」

 こじんまりとしたカフェは、二階建てになっていて上の階はガラス張りで外からも見える。何も言葉にしないまま、前を歩く君に着いていく。

 店員さんに「予約してた」とか、色々言ってるのが聞こえたけど、予約するなんて話も元々してたっけ?

 2階はソファ席が用意されていて、カップル御用達のような雰囲気に圧倒される。なんか、場違いな気しかしない。

 半個室の二人掛けの真っ赤なソファ席に君は一人で入っていく。座ったかと思えば、いつのまにか解かれていた右手で隣をとんとんと叩く。

「こっぱずかしいんだよ、俺だって。早く座ってよ」

 隣に座るなんていつぶりだろうか。向き合ってご飯とかはしてたけれど、なんだか私まで恥ずかしくて壁に視線を流して隣に座る。太ももに触れる君の体温がやけに熱い。

 テーブルの上に置かれたココアの上にはふわふわのクマが揺れていた。

「えっ、かわい」
「絶対好きだと思ったから、連れてきたかったの。でさっきの話だけど」
「急に戻さないでよ、今クマちゃんで癒されたところなんだから」

 耳を両手で塞ぎながら抗議する。君の瞳を今だけは覗き込みたくない。絶望という答えが書いてありそうで嫌だ。

「俺は、リョウコと付き合ってるつもりでした」

 私と向き合いながら、両耳の手をゆっくりと下ろさせる。耳に届く言葉に、ハテナが脳内を埋め尽くす。

「付き合おうなんて言ってないじゃん」
「そうだねぇ」
「なんで、ふざけるの」
「まさか、こんなにも伝わってないとは思ってなくて。よく聞け、好きだ、大好きだ。俺の彼女になってください」
「付き合ってると思ってたって言ったじゃんか」
「リョウコが気づいてなかったみたいなのでやり直してます」

 わざとらしい敬語に棘を感じる。でも、それよりもニヤニヤと口元が笑い出すのを止められない。

「本当にいいの?」
「いまさら」
「だって、え、じゃあなんで、変わんないことばっかりしてるの私たち」
「リョウコの為だったんだけど、変わったことしたいなら、はい」

 広げられた腕に、「いつもと変わらないじゃん」なんて悪態を吐きながら収まる。ぎゅっと抱きしめられた体温が、熱くて咽せそうだ。そのまま、近づいてくる顔。

 頬にキスされたかと思えば、私抱きしめたままに唇にも頬にもおでこにも何度も何度もキスを落とす。

 酸欠になった脳で出せる言葉なんて何もなくて。

「こんなに好きだけど?」
「急すぎて意味わかんない」
「クリスマスどこいく? ってか、そもそもリョウコが慣れてないからって手加減してた俺が悪いよな。もう、待たないから色々」

 腕の中から解放してもらえず、ゼロ距離のまま話しかけるから吐息が鼻に掛かってそこから熱が広がっていく。

「好きだよ、本当に好き。すげぇ好き。付き合えたと思って浮かれてた俺を可哀想だと思って欲しいくらい。そんな可哀想な俺に甘さをください、ほらほら」

 調子に乗ってきた君の鼻に噛み付くようにキスをする。

「そんなとこも可愛い」
「いままでと全然違うじゃん」
「我慢してたんですけど?」
「もう少し我慢してください」
「してたら伝わらないみたいなんで、いやです。好きだし、可愛いし、もう一回ちゅーしたい」

 したい、と被さるくらいには、既にちゅーされていて、失敗したかなと思う気持ち半分。嬉しい気持ち半分。ううん、どちらかといえば嬉しさが上回っていて、心臓が止まってしまいそうだ。

<了>


あとがき

ということで、西野夏葉さん主催アドベントカレンダー参加作品です✨
私の大の仲良しの葵野楓さんからのバトンを受け取って、明日は私の一推しの東里胡さんへ!
もはやこの二人に挟まれたことが私へのプレゼント……!
主催の西野さんと甘々でいきましょうって話してたので、甘々を意識して書いてみました。
楽しんでいただければ、幸いです。

他の方の作品はこちらからどうぞ🎁
素敵な作品たくさんです。
私で折り返しですが、まだまだ続きますので毎日プレゼントを開けるように楽しんでくださいませ✨

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