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S28-2 『故信~nothing~』

「俺は絶対にサッカー選手になれる」
そう信じて疑わなかった俺に、昨日、完全なる引導が渡された。
その一部始終はこうだ。

大学最後の大会、このラストチャンスに全てをかけていた。
レギュラーメンバーとなり、インカレに出て活躍して、J2でもJ3でも良いから、何ならテスト生でもいいからプロの扉をこじ開ける、いや、こじ開けるしかないと思っていたからだ。

これまではスポーツ推薦と一般の壁で、実力を見てもらえない2年くらいがあって、3年生になって練習に参加し、頭角を現せたと思えた1年があって、そしてBチーム・Cチームではあったが試合に参加することができたこのラストイヤーだったから、希望を持ってメンバー発表を待っていた。

結果は、メンバー外だった。

最後の1名が呼ばれた後の記憶は無く、気づけばミーティングルームの人だかりがぞろぞろ退出し、練習場やトレーニングジムに向かっていく者、寮の自部屋に戻り、身支度を始める同級生たちがいた。
その大勢の足音でやっと意識を取り戻し、コーチに歩み寄っていった。

「どうして、俺は外れたんでしょうか?」

納得できない気持ちを解消したいとともに、少なくとも漏れた理由を聞き、そのフィードバックを元にまた新たな策を講じ、少しでも上のレベルでサッカーを続けられるようにしたいと考えてのことだった。

でも意外だった。俺にとっては意外すぎた言葉が返ってきたんだ。


「いや、外れるも何も、そもそも当落線上にもいなかったぞ、お前は。というより、お前、誰だ?」

戸惑いながらも懸命に返した。

「いや、あの、4年の田丸です。最近B戦でよくサイドバックやってる」

「あ、そう。ごめん、本当に知らないわ。。ただキツイ練習やこの体育会系にも耐えて4年間続けてきたっていうことは偉いから、ここで君を知ったのも何かの縁だから、心を鬼にして伝えておくが、君はサッカーをここで諦めたほうがいい。正直言って才能やセンスはないから、俺の目にも止まらなかったし、他の学生コーチや関係者の目に止まらなかったのだと思うから。ここまでサッカーを続けているということは、サッカーが好きなんだよな?だったら、指導者を目指すとかそういう道だってあるし、長い間サッカーを通して培ってきたモノは、どこでも通用するはずだ。でも、これだけは言える。君はサッカー選手にはなれないし、プレイヤーとしてはもう花は開かない。。心苦しいが、これも指導者としての仕事だと思うんだ、すまない」


初めてだった。ここまで言語化されて直接言われたのは。


やっと気づいた。“過信”で生きてきたということを。

薄々違和感はあったんだ。
これまで思ったような成果を挙げられなかったり、自分の自分に対する評価や期待値と周りの人から受ける目や言葉、態度は明らかに大きなギャップがあったことに。
でも、それは他者の見積もりの甘さで、俺は俺自身に正式な見積もりを弾き出せていると思っていたから、まあまあ見ていてくださいよ、くらいにしか思っていなかった。

でも、でも、正し見積もられていたのは自分以外の他者の方で、俺の期待概算はひどいものだったみたいだ。

夢見てた夢は、夢物語となり、奇しくも22歳になった昨日、追いかけてのめり込んでそのことしか考えてなかった15年間の集大成は、描いていた絵と180°異なるモノクロの無彩色で、影も形もない空っぽの姿しか写し出してくれなかった。


俺はそれまでの自信を失い、過信権化・田丸龍之介は【故人】となった。

(つづく)

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