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リョウのこと 前編

ほぼ実話の250枚ぐらいの小説を書いたのですが、実話過ぎてどこにも出せない…。(と言いつつ、新人賞には出した。けっこういいとこまで残った)そして実話なので、書いた本人以外はあまり面白くない。
数日間ぐたぐたと呟いていたヤリチンくんとの恋愛を抜粋して載せてみます。

えっと、ここに出てくるミユという子は、友人に紹介してもらったボーカルの子で 、リョウはミユと同棲中の彼氏。私は高校三年生で、リョウとミユは二十歳でした。
が、電話ばっかりしているうちに2年ぐらい経ってる…。
そしてシンというのが当時の彼氏。

******

ある日曜日に、私はいつものようにミユとリョウの家に遊びに行った。リョウは貸しスタジオでバンドの練習の予定だった。
「マキちゃん、私ちょっと疲れ気味だし、たまった家事もあるんで、リョウと行って来て」
その日、ミユはなんとなく調子が悪そうだった。
「大丈夫?」
「大丈夫よ。仕事立ち仕事だからさ、やっぱり疲れがたまるんだよね」
その貸しスタジオは、繁華街の中ではなく、住宅街の中にあるらしい。閑静な住宅街の中をリョウと歩いているのは恐ろしく場違いだった。そんなところにスタジオを作って需要はあるのか、とても疑問だ。
「あのさ、マキちゃんって処女?」
「え?」
なんだいきなり、昼間から。
「ごめん、変なこと聞いて」
「何でそんなこと聞くの?」
「実は会社の同僚に、いいなと思う子がいてね、その子が……そうなんだ」
「いいなと思う子がって……じゃ、ミユさんは?」
「それはそれ、これはこれ」
「で、何でそんなこと知ってんの?」
「本人から聞いた」
「ってことは……さあ、その……そういうことが話題になるような仲なの? つまり……」
「まーね。かなり前からがんばってるからな。もうちょっとってとこだ」
「鬼畜だなあ」
「新鮮なんだよ。うちの田舎の方じゃ、せいぜい持って中学の修学旅行までだから」
「地方によってはそういうところもあるって聞いたことあるけど……信じられない」
「まあ、中学のときからそんなだから、やめられないとまらないって。多分百人は超えてるな」
「あのさ、それってこっち来る前のこと?」
「いや、こっち来てからも快調だな」
「彼女いるのに?」
「だから、それはそれ、これはこれ」
「そういうものかな」
「自信がないんだ。俺不細工だからさあ、常に誰かを口説いてないと……落ち着かないんだ」
「私にはよくわからないなあ、お子様だから」
「言うなよ、ミユに」
「……言うかも。……嘘。言わない」
どこから見ても、リョウは自信ないどころか、自信過剰気味に見えるのに、意外だった。それにしても、なかよしカップルだと思っていたのにそんなことになっていたなんて、かなりのショックだ。
ミユとリョウは私にとっては第二の家族みたいなものだ。ミユとは可愛くて変な雑貨の話をして、リョウとはギターの音のことを話して、ミユが言い足りなかったことをリョウ説明するのを聞いて、リョウが昔々にミユに言った、ちょっとかっこ良すぎる口説き文句についての惚気を聞かされて、三人で顔を見合わせて笑う。それは、私にとってすごく特別なことのような気がしていた。
一度だけシンを連れてリョウとミユに家に遊びに行ったこともあるけど、両方の親密な空気が壊れてしまうみたいで、やはり別々に会うようになった。そのほうが自然なような気がした。

(中略)

ミユは、ここのところ、なんとなく疲れているように見えることが多くなった。もともと痩せていてあまり健康そうには見えなかったけど、会う度に不健康さの度合いが増してくるのだ。なんとなく心配だったけど、特に何も聞かずにいた。 
「もしもし、マキちゃん」
「うん、ミユ元気?」
「それがね、私しばらく入院することになったの」
「入院って?」
「私には持病があるの。腎臓なんだけど。自宅にいても良くなったり悪くなったりで……しばらく入院することにした」
「そんな、入院するほど悪いんだ」 
「そうでもないんだけどね……仕事、立ち仕事で冷えるでしょ、うちでは家事もあるし、だからリョウがしばらく入院しろって。ライブにはちゃんと出るよ。その頃にはいくらなんでも退院してると思うし」
「ライブなんていいからさあ、早く直して元気になってね。お見舞いに行くから」
本当はライブができるかどうかを真っ先に心配した。何て自分勝手な私。それから、入院先の病院名を聞いて電話を切った。

 (中略)
 
 ミユの見舞いに行く前日にリョウに電話をかけた。駅からの道順とか、面会時間とか、病状とか細かいことを聞いておきたかったからだ。
「もしもし、リョウ」
「あ、マキちゃん」
「ミユどうしてる? 見舞いに行って大丈夫?」
「喜ぶと思う」
それから私は、電話をかけた理由である、病院の詳細を尋ねた。
「入院するほど悪かったんだ」
「そこまで悪いってわけじゃないんだけど、ほとんど慢性化っていうか、この生活してたんじゃ治らないから、退院したらしばらく実家に帰そうと思うんだ」
「え、なんで?」
「あの立ち仕事続けてたら確実に治らないし、しばらく実家でゆっくりした方がいいんだ。親も喜ぶだろうし」
「うーん。残念だな。どのくらい?」
「二ヶ月ぐらいかな。悪いけど、新しいボーカル探してくれ」
「そんなことはいいんだ。せっかく仲良くなったのに……あのさ、まさか不仲とかそういうことじゃないよね……あの同僚の彼女は?」
「ああ、相変わらず。ミユと別れる気はない」
「引っ張りますこと」
「ああ、色々と希望があるらしいんだ。ラブホとかじゃダメだって」
「……一体何にこだわってるの、その人?」
「可愛いじゃないか。そういうのが楽しいんだってば。俺は全然焦ってないし」
「まあ、他人のことだからどうでもいいけどさ」
「そういうマキちゃんは、シンとはどうなってるんだよ」
「そりゃ、高校生らしく清く正しい交際を……」
「本当かよ」
「あんまり突っ込むと、ミユに言うよ」
「そう来たか」
「まあ、そういう訳で、リョウちゃんは明日病院来るの?」
「明日は仕事で行けないな」
「それじゃあ……ね」
ミユがいないとなると、リョウとは会う予定もなかったので、今度いつ会おう、という別れの挨拶の定番みたいなことを言えず言葉に詰まった。
「また、いつでも電話しろよな」
「わかった」
「ミユいなくても構わないから」
「うん、電話するよ。それじゃあね」
そういうと私は電話を切った。

(中略)

なんだか暇だなあとおもってリョウに電話してみた。ミユももしかしたら帰ってきているかもしれない。
「もしもし、リョウちゃん? 私、マキ」
「マキちゃん、久しぶり。どうしてた?」
「うん、相変わらず。メンバー一人足りなくなった。ベース、誰か知り合いいない?」
「……いないな。シン元気か?」
「うん、元気だと思う。今実家に帰ってる。帰省シーズンだからね。ところでミユいつ帰ってくるの?」
「九月には帰ってくる。夏どうせまた帰省するんならもうちょっといろって言って」
「そーなんだ。ミユ帰ってきたらまた遊びに行くね。ところで彼女とはどうなってんの?同僚の」
「ああ、相変わらず。いい子なんだけどね、つまらない。マキちゃんこそ、シンとはどうなってんの」
「どうなってるって、相変わらずだよ」
「ヤった?」
「ちょっと、そういう中年のオヤジみたいな直截的な聞き方やめてくれないかな」
「で?」
「……海の見えるリゾートホテルってわけには行かなかったけどね、まあそれなりに」
「それはめでたい。で、イク?」
「え?……イクって?」
「セックスで」
「やだなあ、オヤジはこれだから……わかんないな、その、イクって」
「ミユは失神するよ、時々」
「え、本当に失神する人っているんだ。すげー」
「実はさ、もうひとり付き合ってる人がいて……」
「もうひとりって……三人目?」
「高校の時の先輩なんだけど、こっちでたまたま会う機会があって、向こう、彼氏と別れたばっかりだって言うんでつい……いい女なんだ、ほんと」
「でもさ、いい加減にしとかないと、本命に逃げられるよ」
「……それはよく言われる。でもどうにもならなかったんだ」
「でもさ、すぐに二人と別れる気ないでしょ」
「ない」
「まあ、他人に何言われても本人の問題だからね。ミユによろしく」
そう言って、私は電話を切った。

 (中略)
 
 八月の最後の週にミユが帰ってきた。早速、遊びに行って、実家にいる間に作ったという服などを見せてもらってミユがいない間の出来事などを話した。バンドがどうなっているかとか、ライブを見に行ったとか、他愛もない話ばかりだったけど。翌週ライブを見に行く約束をした。
リョウとは電話ではよく話してはいたけど、会うのは久し振りだった。リョウのもう二人の彼女のことはもちろん言わなかった。ミユが帰ってきたことによって、二人が元に戻ってくれることを密かに願った。
 
 ミユが帰ってきてからも、リョウとは時々電話で長話をした。リョウと電話で話をするのはほとんど習慣のようになっていたので、急にやめるのも変な気がしていたし、三人も彼女がいると、それぞれに嘘つかなければならなくなるので、全てを知っていて嘘をつかなくて良い私と話をするのがやはり息抜きになっていたのだと思う。
「大丈夫なの、今話して」
「会社から。誰もいないし、今日は徹夜だから、大丈夫」
リョウは、二週間に一回ぐらいの割合で徹夜勤務をしている。ホスト・コンピューターの運用という仕事柄、徹夜は避けられないらしい。
「いつまでも三人と続けるつもりは無いんでしょ」
「ないよ。体が持たない」
「だったら、一人にすればいいのに」
「そうなんだけど、どうしていいかわからない」
「一番好きなの誰?」
「先輩」
ミユじゃないのか。
「だったら、他の二人とは別れればいんじゃん」
「そう簡単に言うな……マキちゃんは、上手くいってるの?」
「まあね。あんまり会ってないけど」
「なんで?」
「忙しいんじゃないかな、バンドとか……毎日電話とかしないし」
「信じられない」
「そういうやつなんだよ、シンって。上手く説明できないけど」
電話をかけても、取り次いでもらえないことも多かったので、あまり頻繁に電話したりはしなかった。シンからもしょっちゅうはかかってこない。そういう状態に慣れてしまったというのもあるし、あまりしつこく追い回したら、嫌われるんじゃないかとも思っていた。
「好きだったら、毎日会いたい、っていうか毎日抱きたいと思うのが普通じゃないかな。そう思ってミユとは一緒に暮らすようになった」
ごちそうさま。で、浮気かよ。
「……まあ、人によるよ。そういうのは。でも私は一番じゃないなあ。バンドが一番マキは二番」
「三時のおやつは文明堂」
「ご名答。あ、私の前に進級と麻雀が入る」
「淋しくない?」
そう聞かれて、私は三秒間ほど沈黙した。受話器の向こうからは何も聞こえない。ふと、淋しいのは私ではなくリョウなのではないかと思う。
「慣れてるから」
リョウからの電話を切ってから、シンに電話しようかとふと考えたけど、ちょっと時間が遅かったのでやめた。
 十月の寒い夜に、淋しくならないひとなんているのだろうか。

(後編に続く)


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