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感謝疲れ

秋野暢子さんが、テレビの健康情報番組で闘病経験を話していた。「一日一日のすべてのことが、特別なものなんだと気付くことができた」。


わたしも衣食住と医療の充実に感謝している。死なないことが、当たり前でないとわかったのは心臓病を患ってから。やはり秋野さんのように病気を得た苦労による。


安全な水を飲めて、静かに暮らせる環境にいるわたし。飢えた経験がない。こんなに恵まれた人生があるか。父は、「感謝が足りない」とわたしを怒る。


感謝にも時間がかかる。体力を使っている。これ以上できない。わたしは人間全員が奇跡の存在と思うし、戦争で殺されていった日本人への感謝を欠かさないけれど、普段そういう話題にはならない。感謝に実利はなさそう。


家のお手洗いへ行くたび、わたしは「自由に使えるお手洗いがあること」「歩ける脚」に感謝する、毎回毎回。捕虜生活になったらそうはいかない(はずだ)から。入院経験があってわかるのだが、自力でお手洗いに行けないとき、行ってはならないとき、やっぱり精神的に堪えた。


わたしはお湯を飲むにも感謝を欠かさない。家では飲み放題だし、外出には水筒を持ち歩けるし、自家用車で使うためのお湯を沸かす道具まで常備する。


食べ物には特別に神経を払っている。記念日のような豪華な食事を毎晩。週に1回は、お正月と見まごう絢爛豪華な食卓を準備できる。食費は毎日8,000円。これを当たり前とは思わないが、わたしはそうする価値のある人間だと思っているから続ける。感謝を忘れたことはない。


わたしは毎分毎秒、感謝を欠かさない。先進国の都市部に住み、高度な医療を受けられることに感謝。平和で豊かな時代に生きて感謝。市民権に感謝。治安のいい地域にいて感謝。お金に困ったことがなくて感謝。小顔に生まれて感謝。親がまともで感謝。高等教育を受けることができて感謝。働かなくて済んで感謝。仕合せを感じるから感謝。自分専用の車がプチ高級車で感謝。ほしい物を全部買って感謝。最大音量で歌の練習ができて感謝。ティッシュペーパーを山のように使えて感謝。時間が余って長く眠れて感謝。うるさい隣近所がいなくて感謝。家族と暮らせて感謝。ダイエットしなくていい体重と体型に感謝。ベートーベンを聞き放題で感謝。残された筋力に感謝。わたしを構成する脳に感謝。文章を書く技能と道具に感謝。

読者の皆さんに感謝。宇宙に感謝。人間の知の祖・ソクラテスに感謝。この偉人を世界の哲学者たらしめたクサンティッペに感謝。わたしはおびただしい充足に呑まれる。疲れても感謝。

ありがたいことです。目に留めてくださった あなたの心にも喜びを。