余命10分 / 2023年7月26日 — リノリウムの床。

今朝から大きな病院に来ている。小さな頃から皮膚が弱かったため、皮膚のトラブルが耐えない。今回は通院と日々のケアを続ければ治る病気だけれど、完治に1年はかかるらしい。子どもの頃によく母と皮膚の治療のために病院に通った。やわらかくてやさしい記憶だ。

大きな病院に来ると、自分が癌を患って入院・通院していた数年がフラッシュバックする。精神的に不安定な時だと眩暈や吐き気がして、母とのやわらかい思い出が床に落ちる。余命半年を宣告され、死にたくない、死んでたまるか、とベッドの上で震え続けていた日々に、臨終を迎えようとする母の苦しそうな姿が重なるような感じ。

ひんやりと冷たいリノリウムの床。消毒薬のにおい。どこからともなく聞こえる電子音。誰かが名前を呼ぶ声。時々廊下の片隅に現れる黒い影。窓から見える鎮守の森。それらが自分の記憶なのか、母との記憶なのか、わからないくらいに混ざる。そのたびに、母はぼくの身代わりになったのではないかと考えてしまう。ぼくの癌を奪い取って、膵臓に抱え、海に飛び込んだのではないか。

初盆が近づく。

もし母が身代わりになったとして、母の分までうまく生きられているだろうか。まだまだ全然、行動も考えも足りていない気がする。

10分。

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