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江戸時代往古の風情が薫る旧甲州街道と小仏峠トレッキング ♣歴史に連なる山登り♣(0009)

江戸時代の五街道のひとつ甲州街道の旧道のうち武蔵国と相模国の国境である小仏峠を越えるコース。当時の宿場町本陣の建物がいまも残りたいへん貴重です。

<趣意>
山林が国土の約7割を占める日本では、山も歴史との関係が深いものがあると思われます。そんな日本の歴史とも由縁のある山を、連なった歴史とともに辿っていきたいと思います。
(本記事/ 文字数:約5500字  読了:約11分)


旧甲州街道

<端緒>

高尾山と陣馬山をつなぐ稜線上にある小仏峠は武蔵国と相模国の国境です(いまは東京都と神奈川県の県境)。江戸時代はこの小仏峠が江戸と甲府を結ぶ甲州街道でした。
小仏峠を越えて相模国の最初の宿場町が小原宿(おばらしゅく)です。いまもここに江戸時代の本陣であった稀少な建物が現存しています。この本陣をみたいと思い、せっかくですから武蔵国側の小仏関所跡から旧甲州街道を歩き、小仏峠を越えて向かってみました。

小原宿本陣 門

<トレッキングコース>

今回は高尾駅を起点にして旧甲州街道を通り、奥高尾縦走路に位置する小仏峠まで上がり相模湖そばのかつての宿場町・小原まで下りていきます。

高尾駅北口

京王線・JR中央本線「高尾」駅北口からスタートです。駅北口のバスロータリーには陣馬山などへ向かうバスに乗る登山者がたくさんいらっしゃいます。バスも旧甲州街道を通り「小仏」まで行く便がありますが、今回はそこまでも歩いていきます。

中央線の高架脇を歩く

バスロータリーから郵便局の脇の道を通りさらに薬局の横の細い路地に入ります。中央線の高架に沿うように進みます。西浅川にかかる両界橋で国道20号線(現・甲州街道)に合流します。20号線に入りすこし歩くと西浅川・交差点があります。交差点で20号線をそれて右手に入る道が旧甲州街道(県道516号線)になります。

小仏関跡
小仏関跡 説明案内

左手にある病院を通り過ぎてしばらく進むと右手に小仏関所跡があります。このあたりは甲州街道の武蔵国側宿場町・駒木野宿であり、そこに関所が置かれていました。小仏関所は武蔵国に入り江戸につながる出入り口にあたるため「入鉄砲出女」の厳重なチェックが行われていたようです。

関所跡からふたたび歩き出します。川沿いに旧甲州街道を西へ進みます。ところどころにお地蔵様があります。また自然の地形・地勢そのままに微妙な勾配そして不規則な左右にゆらめくようなうねる道筋がいかにも古道だなーという名残が感じられてとても面白いです。

圏央道の高架下(八王子JCTそば)に「高尾梅の郷まち広場」があり、この周囲に梅林もあります。2~3月の季節に観梅に訪れるのもよさそうです。さらに先へ進むと左手に明治天皇が行幸された際の休憩所がありました。明治天皇は全国に行幸されましたが、その際に甲州街道を利用された当時はまだ現在の国道20号線は開通されておらず、この旧甲州街道を利用されたのでしょう。

小仏峠への登山道

休憩所を過ぎてさらに足を進めると「小仏」バス停にたどりつきます。多くの登山者もここまでバスでやってきて景信山や高尾山へ向かいます。「小仏」バス停から先は坂道となり徐々に傾斜も出てきます。右手に中央自動車道、左手に宝珠寺を越して曲がりくねった坂を上がっていくと景信山への登山口が出てきます。小仏峠へさらにその先へ進むと駐車場にたどりつきます。その先が小仏峠への道となります。

小仏峠からの眺望

駐車場から先は土の山道です。杉林のなかを上がっていき、徐々に高度を上げていくと高尾の町の景色が見えてきます。そこから少し登ると小仏峠になります。中央自動車道の小仏トンネルはこの小仏峠の下を通っています。小仏峠にはベンチが置かれ、高尾や八王子方面と思われる下の風景もよく見えます。

小仏峠から相模湖への分岐
旧甲州街道の道標

すこし高尾山よりに進むと明治天皇が小仏峠で休憩をとられた跡の記念碑が立っています。記念碑があるポイントから稜線を外れて相模湖方面へ下りていきます。道標に「底沢バス停・相模湖駅」と表示されている道になります。記念碑がある平場の東屋の裏に隠れているように道がつけられており、一見すると分かりにくいです。


相模湖への登山道
甲州道中と東海自然歩道の道標
中央本線の線路脇を進む
国道20号線を小原宿本陣へ

相模湖方面へ下りていく人は少ないですが、神奈川県側がきちんと道標も設置しているので迷うことはあまりないと思います。杉林のなかをどんどんと下っていくとやがて舗装道路に出ます。道標に従って相模湖方面へ道を進みます。中央本線の高架をくぐり進むと国道20号線に合流です。合流地点に「底沢」バス停があります。20号線の歩道を右手へ相模湖に向かって歩きしばらくすると小原宿本陣の看板があります。5分ほどで小原宿本陣です。


小原宿本陣
小原宿本陣 説明案内

本陣の建物は無料で公開されています。なかには周辺地域の民具や農具が保管されて展示されています。本陣は江戸時代の宿場町に参勤交代の際に大名の宿泊にふさわしい格式の宿泊所として建設されたものです。いまや現存する建物は数えるほどです。


小原宿本陣 上段の間
小原宿本陣 襖絵

小原宿の本陣は当時の上級の宿泊施設としての雰囲気がよくわかります。簡素なつくりのなかに重厚さがあり、また細部でしっかり造作が施されています。畳を室内にふんだんに使い部屋も木戸などで間仕切りされています。江戸時代の人々の質素な生活感や社会レベルをうかがうことができます。けして生活レベルが低かったわけではなく。無駄な華美にはしらずに質実剛健的な生活をおくっていたのでしょうか。


甲州街道小原宿 説明案内
小原宿 古民家
小原宿 暖簾と屋号

本陣から相模湖の方へ向かって20号線を進むとかつての宿場町の雰囲気がまだ残っています。古い農家や商家のようなつくりの家が多くあります。家々の玄関には家紋の入った暖簾が下げられ、また屋号を外から分かるように残しているところも当時の趣が感じられとてもよいなーと思われます。おそらくこれは意図的な取組みなのでしょうか。


相模湖と相模湖大橋
小仏峠を振り返る
相模湖

先へ進むと相模湖が見えてきます。20号線を外れて左手に下りていくと相模湖にたどりつきます。今回はここがゴールです。相模湖から相模湖駅までは徒歩10分程度です。
江戸時代の主要街道といえば東海道や中山道であり、甲州街道はマイナーな存在でしょうか。失礼ながら特別に大きく注目を集める観光スポットも比較的少ないためか現代的な整備や再開発が大規模に行われなかったように見えます。しかしそのおかげか、かつての風情や趣が残ったといえるかもしれません。古道歩きや歴史好きの目線からすると、とても楽しめるルートなのではないかと思われます。

<概要>

旧甲州街道 小仏峠
(きゅうこうしゅうかいどう こぼとけとうげ)
所在地: 東京都八王子市、神奈川県相模原市

<行程表>

※標準的タイムによる目安(休憩含まず)
「高尾」駅北口→ 両界橋(15分)→ 西浅川交差点(3分)→ 小仏関所跡(10分)→ 高尾梅の郷まちの広場(15分)→ 城山北東尾根入口(20分)→ 「小仏」バス停(15分)→ 小仏峠登山口・駐車場(20分)→ 小仏峠(25分)→ 旧甲州街道分岐(5分)→ 旧甲州街道→ 小仏峠登山口(神奈川県側)(30分)→ 照手姫伝承地への分岐(10分)→ 国道20号線合流・「底沢」バス停(10分)→ 小原宿本陣(5分)→ 小原宿→ 相模湖(20分)
コースタイム/ 4時間程度
標高差/ 370m程度 (高尾駅:170m、小仏峠:548m、相模湖公園:169m)

<トレッキングコースの補足>

登山道部分は道標が要所にあるので迷うことはあまりないと思います。
「高尾」駅南口に出ると、北口へ回るには道路をかなり大回りしなければなりません。京王線ご利用の方は自動改札機を通じてJR側の北口へ連絡できます。
東京側の旧甲州街道は歩道がなく車道の路側帯を歩きます。交通量はそこそこあります。
●水場やトイレ
水場が登山道上には東京側の登山口にありますが、あまり期待しないほうがいいと思います。
トイレは、高尾梅の郷まちの広場、小仏バス停、小原の郷、相模湖公園にあります。

<難易度・危険箇所など>

とくに大きな難所や危険箇所などはほとんどありません。

<アクセス>

●往路
JR中央本線「高尾」駅から徒歩
●帰路
JR中央本線「相模湖」駅まで徒歩

<国土地理院地図>

高尾駅

<こんな方にオススメ>

(1)古道を歩いてみたい
(2)古い街並みが好き
(3)登山を絡めたタウンウォーキングに興味がある


<そのほかの補足情報>

[売店等]

登山道上に売店等はありません。
「高尾」駅北口には売店とコンビニエンスストアがあります。
相模湖(相模湖公園)には売店があります。

[お食事処]

相模湖公園には複数の飲食店があります。
相模湖駅そばには複数の飲食店があります。
高尾駅そばには複数の飲食店があります。
さがみ湖温泉うるり・極楽湯内には食堂があります。

[日帰り温泉など]

さがみ湖温泉うるり (プレジャーフォレスト内) ※公式サイト
京王高尾山温泉 極楽湯 ※公式サイト

[名産品]

わかさぎ (相模湖)

[付近の山]

高尾山
陣馬山
石老山
東海自然歩道
関東ふれあいの道

[その他]

(1)小原の郷
小原宿に関する観光ビジターセンター。パンフレット備置あり。
リンク先: 施設案内 小原の郷 (相模原市)
(2)相模湖観光案内所
相模湖駅そば。パンフレット備置あり。
リンク先: 観光案内所 (いい~さがみはら/相模原市観光協会)


甲州道中歴史案内図

<甲州街道と甲府城>

甲州街道は江戸時代の主要街道である五街道のひとつとされていますが、東海道や中山道に比べると地味な印象です。江戸と甲府を結んでいますが(街道自体は諏訪まで続く)、東海道や中山道における東西の流通・連絡という役割と比較してその意義が不明瞭に思えます。つまり江戸と甲府を結ぶ近距離の道路が主要街道とされるほど重要だったのか?という疑問です。

この点については甲府城は江戸城が敵の侵略をうけて万が一、徳川将軍が江戸城から逃げ出して避難するための役割があったとも考えられています。江戸~甲府間は他の五街道と比べても短い距離です。また甲州街道沿いに八王子千人同心などが置かれるなど、万が一の場合を想定して将軍の警護につく役割を担う幕臣たちも存在していました。甲州街道は将軍の逃走用ルートとして開発・整備されたのかもしれません。

実際、幕末に徳川慶喜が大政奉還して江戸に帰ってきたあと、近藤勇・土方歳三らを中心とした部隊が幕閣の承諾を得て甲府城に入り支配を固めようとしました。これは江戸に迫る新政府軍との間で大規模な内戦に入った場合、慶喜を甲府に逃がすことができるようにするための手立てだったとも考えられます。

新政府軍も甲府城の目的を理解していたと思われます。板垣退助率いる新政府軍の分隊は近藤らよりもいち早く甲府城に入城してこれを接収し幕府の思惑に先手を打ちました。この結果、幕府としてはいわば退路を断たれてしまったといってよかったかもしれません。


<備考>

甲州街道 (Wikipedia)
小原宿 (Wikipedia)
小仏関所 (Wikipedia)
小仏峠 (Wikipedia)
小仏宿本陣祭 ※公式サイト
毎年11月に開催される大名行列などのイベント

<参考リンク>

ぶらり相模湖 (相模湖観光協会)
東海自然歩道 (神奈川県)
関東ふれあいの道 (神奈川県)
山と高原地図「28.高尾・陣馬」 (昭文社)
高尾警察署 ※公式サイト
津久井警察署 ※公式サイト

<関連記事>

相模湖周辺の登山に関する上町嵩広の関連記事です。一部、外部サイトの記事もあります。


<バックナンバー>
バックナンバーはnote内マガジン「歴史に連なる山登り」にまとめております。

0001 顔振峠と義経伝説
0002 柳生街道
0003 京都・愛宕山と明智越え
0004 石垣山一夜城と小田原城総構
0005 金剛山:楠木正成と千早城跡
0006 箱根・旧東海道と石畳の道
0007 三増峠:北条VS武田 激突の地
0008 いにしえの風を感じるハイキング 大和三山と藤原京跡を巡る


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(2023/11/17 上町嵩広)


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