塞がらない

手のひらから落ちた蜜柑の場所にだけひとりぶんだけ空席がある
鳥の死骸、林檎の皮、手の窪み、通過駅には水を眠らせ
触れたくて触れずにいつか忘れ去る摘出腎や鉄条網を
片翅で飛べない蝶を視界から逸らしてひとを欺いている
おんなたちの笑い声ひかる三日月やナイフで開く南方の果実
燃えにくい桜を燃やす心臓を持たない心を持たない炎で
割り算の余りのような後産を破れた国旗と一緒に燃やす
陽に影にすみわけられた冬の日のふたりの影のかなしいくびれ
一番最後に放す部分のやわらかさ一番最初と似ている あなたの
水風船の中でひっそり老いてゆくようなからだのちいさなみず音ら

#短歌

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