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恋がしたい

最近、若い人の瑞々しい恋物語を見聞きし、感化され、なんだか良い意味で気が変わったので、知的好奇心で「わたしも恋がしてみたい」と思った。

とはいっても、36年もの間、全くモテず、潔癖症で恋愛にも興味がなかった人間にいきなり恋ができるはずもない。

しかしながら、なぜ世の中の人はみんなできているのだろう?
街には普通に出逢って、恋をして、結婚しているカップルばかりである。
そもそも、好きな相手が自分のことを愛してくれる、そんな奇跡が巷で頻繁に起こるものなのだろうか。みんな、前世で徳でも積んだのか。
それともテレパシーや催眠術でも使えるのだろうか。謎は深まるばかりである。

よし、ためしに恋をしてみよう。まずは片思いでもいい。
私は突然、7歳年下の友人ゆいに「私、恋愛したいわ。できれば岡崎体育(みたいな人)と。」と相談を持ちかけた。

私には別に好きなタイプというものは特にないが、強いて言えば、ミュージシャンの岡崎体育みたい人が良いなと思ったからだ。
頭が良く、運動神経抜群で、歌もうまく作曲の才能があり、性格も良さそうで、身長もそこそこ高く、高学歴で、トークもできるし、笑いのセンスもある。人当たりも良いし、コミュニケーション能力もかなりありそうだ。う〜ん、超高スペック!

岡崎体育(みたいな人)と恋愛できれば、確実に人生は明るい。体育くん(みたいな人)は決して頭が良いことをひけらかさないが、ウィットに富んだトークで楽しませてくれそうだし、その物腰の柔らかさからは気配り上手であることがうかがえる。
よし、どっかに体育(みたいな人)落ちてないかなー。

そのときゆいが、「えりこさんはさ、ヤリたいの?お付き合いがしたいの?結婚生活がしたいの?」と言った。
え?待って。恋愛ってジャンルがあるの?
ヤリたいとかいうのはセフレじゃないの?セックスフレンドっていうくらいだから「友達」だと思ってたわ。

「結婚っていうのは文字通り生活だからさ、その人のありのままを見るわけだし、日常なわけよ。」
ふーん。そうなんだ。にちじょお…
「お付き合いしたいの?まあお付き合いすれば延長線上にセックスみたいなものは存在するわけだけど。」
んー、何も考えてなかったな。岡崎体育みたいな高スペック男子がとりあえず迎えに来てくれればOKだと思ってたわ。

恋愛にそんなジャンルが存在するなんて知らなかった。私が見聞きする恋物語では、いつもロマンティックな出会いがあり、お互いが惹かれ合い、自然な流れで手と手を取り合うように距離を縮める。
ジャンルを絞り相手を吟味するだとか、ゴールを結婚生活に設定するだとかそういう描写はない。

「ワンチャンさ、付き合うだけなら結構年上ならすぐだと思うよ。若さはそういうときに武器になる。」
えー、おじさんなんてヤダ。この年になっても若さ云々なんて、気にしたくないし武器にも使いたくない。
まして恋愛をするのにおじさんに狙いを定め、媚を売るなんて疲れる。
煩悩まみれの出会いの場にわざわざ出向くなんて、素敵な恋ではないし、運命はそこにない気がする。

「めんどくさい。恋愛やめるわ。」

恋愛をするには「恋愛市場」に出向かなければいかず、そこにはオジサンしかいないという夢のない話を聞き、私はすっかり意気消沈してしまった。

私もおばさんだから、同じくらいのおじさんなら別にいいけど、かなり年上のおじさんと恋愛するなんてと思うだけでうんざりしてしまった。

岡崎体育(みたいな人)はそう簡単には落ちてないのだ。私にはカボチャの馬車もきれいなドレスもない。
…忘れてたけど、私おまけにデブだったわ。
体育くん(みたいな人)が遠い星のようにまたたいて消えた。

恋愛をしようとするって大変なんだなと私は思った。そんな魔法みたいな奇跡がこの世にたくさん存在するなんて、やっぱり不思議でしょうがない。
そういう当たりくじがたくさんある中で、最初から私のぶんのくじはなかったんだなと思えば気が楽だし、無理してまで赤い糸の相手を探したくない。

それに糸ってなんで赤なんだろうね。
私は七色に輝く虹色の糸がいいな。
恋愛はやめだ、私はひとり気ままに生きることに決めたのだった。

美しい恋愛は、見聞きした話やフィクションの中だけでいい。

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