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デブと性欲〜強迫性障害を添えて〜

ゆいの夫、ゴロウは185cmの高身長だが、なんと170kgになってしまい、健康診断に引っかかってしまった。このままでは娘、れもんの成長を見届けられないと医師に言われたゴロウを痩せさせようと決意したゆい。

そんなゴロウとゆいにダイエットのため宅食を勧める伊東だったが、私、伊東もデブという点では人のことを言えないのだった。

元々、伊東は149cm35kgというミニマムガール(いや妖怪?)だったが、暴飲暴食で自暴自棄な日々を送り155cm(ほんとは154.8かも…)90kgになってしまったのだった。

そんな伊東もゴロウと同じく医師に「痩せてください」と言われ、仕方なく体重を減らすことにしたのだ。
伊東は最初、それにものすごい拒否反応を示したが、糖尿病予備軍という恐ろしいカードをちらつかせられたため、その葛藤をやむなく捨てることにしたのだった。

いとうは、デブというアイデンティティに無駄に執着があった。デブでいることが特別大好きというわけではないのだが、デブだと割と人に興味を持たれることが少ないし、デブ=見てくれが悪いという方程式ができているおかげで、「女から降りること」ができると安堵しその現状に依存していた。

いとうは特に人間に好かれたくなかった。人間界に降りてから35年も経つが、未だに人間がこわくて仕方がないのだ。

ゆいとゴロウは、仲睦まじい夫妻なのだが、相思相愛であっても二人の気持ちというものは似て非なるものらしい。

ゆいはゴロウに対して、全幅の信頼と愛情を感じているが、別に性欲は感じないらしい。
一方、ゴロウはゆいのことをそれはそれはバリバリ性的な目で見ている。
そしてはたから見ていてたぶんゴロウのほうがゆいのことを性的なことを含め好きな感じだ。

伊東は、人間(こわい)と相思相愛になったことがないので、「相思相愛」の中身が個々によって違うことがよくわからなかった。伊東にとって、両思い的なものは二人が全く同じ気持ちでいることだと思っていたのだ。

伊東は、結婚というものに失望していた。まるで、映画アメリで冷たい家庭に絶望して水槽から身投げした金魚のように。

というのも、伊東の両親は仲が悪く、極端な話、宙に鍋や包丁が飛び交うようなレベルで、
伊東も母親にボコボコにされることが日常茶飯事だったからだ。伊東は幼稚園児にして黒魔術の真似事で、母親を呪っていた。そして、キティちゃんのノートに恨みつらみを綴って、復讐を誓う「うらみノート」までつけていた。

ある時、いとうは少女小説を読んだのだが、そこには
人間の小指には赤い糸と青い糸いずれかが巻き付いていて、青い糸を引き寄せてしまったら、間違った相手と結ばれ、幸せになれないと書かれていた。

あっ、うちの両親はこれなんだ。と幼稚園児の伊東は思った。
いや何となく思い込むしかないと感じたのである。そうでないとやっていられなかった。

そういう愛情に飢えた人というのは、心理学の研究ではだいたい若い頃に非行に走りやすく、未成熟なまま結婚し不幸になり、自らも子どもを虐待してしまうと書かれているが、
伊東という人は、不良仲間と付き合える社交性もなければ、
人間と付き合うことが恐ろしく、セックスにものすごい嫌悪感を抱いていたので、なにもせず見事にババアになってしまった。

さすがに35年そのような経験がないと自分が浦島太郎のような感覚になるときはあるし、いくら性嫌悪であるとはいえ自分には性欲的なものがあるのだろうか?という疑問にも、いきついてくる。

ゆいは「えりこさんってなんかエロそうだよな、特に口元が」と言う。「いやね、35年もアレなわけでしょ。タガが外れたらすごそうじゃん。」
確かに。私も客観的かつ冷静に考えて、そんな気がしてならないし反論できない。

私は欲望が強すぎるところがある。まずよく寝る。
これは世をはかなんでいるともいえるが、欲望に正直ともいえるだろう。
伊東は異常に知的好奇心というものが強い。無駄にこの世のすべてを知りたくなるのだ。
それは食欲にも通じている気がする。とりあえず色々なものの味を知りたい、新製品はなんでも試し、食してみる。
どこか心寂しいという理由もあるが、物欲もすごい。
おそらく「知識欲」というものに便乗して、情報を得るために本やDVDやCDを買い集めるのだ。私の中心には知識欲というものがあって、それを食欲や睡眠欲、物欲が取り巻いている気がするのだ。
そうなると性欲も強そうな気がしてならない。

想像してみた。イマジンだ。
もし伊東が医師の指示通りに痩せまくって、降りたはずの女に乗車してしまったら、非常に馬鹿馬鹿しい妄想だが
東電OL事件のようにポン引き等しまくってしまうのだろうか。想像しただけで怖すぎる。

まあ確かに知的好奇心が強いなら、セックスにも興味があるほうが自然であるが、反対になぜ興味がないのだろう。

今はなんだかバッチいだとか、性病がうつりそうだとか強迫的な考えしか浮かんでこない。

そもそも強迫性障害でなかったらどうだったのだろう。
答えは闇の中だが、ゆいの言うように私はエロいのだろうか。
そんな疑問を抱えながら夜は更けていくのだった。

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