終わりの始まり

善吉は毎日智恵子に怒鳴り散らしていた

歩くのが遅い、飯がまずい
お前は気が利かない、のろまだ

それでも智恵子はいつもニコニコしていた

はいはい、と嬉しそうに答えるだけ

そんな、ある日

智恵子は突然旅立った

善吉は、棺桶の中で静かに眠る智恵子に向かって呟いた

「悪いな

ちゃんとありがとうって言ったことなかったな

もう怒鳴ったりしねぇから、ゆっくり休め」

智恵子は今日も笑っている

これからも、いつまでも

「ありがとよ」

「どういたしまして」