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11月30日

ちょうど一年前に私達はサンフランシスコのオンボロアパートから夫の実家に引っ越した。11月11日に急に思い立ってかなり断捨離もした。その時は2020年がこんなことになるとはまだ想像もしていなかった。オフィス街と華やかなショッピングエリアに挟まれたアパートの後ろ側はチャイナタウンとノースビーチ(リトルイタリー)と徒歩10分圏内に何でもある環境だった。狭いけどロケーションに関してはたまにカリフォルニアに帰ってくる娘にも大好評だった。

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このアパートではいろんなことが起きた。アパート地下のコインランドリーでは目の前で下着を盗まれたり、古い建物なのでよく止まったエレベーターで閉じ込められたけど自分でこじ開けて降りたこともあった。下着泥棒は後ろ姿のスケッチを描いたら同じ建物に住む住人で女装が趣味の人だった。ある日、ドアを開けたら自分の部屋の前に大男が倒れていた事もあったし、お風呂に入っていたら水漏れして階下のおばあちゃんに中国語で何度か怒鳴り込まれたこともあった。私の部屋は3階にあり、4階建てのアパートだったがこの真上に引っ越して来た若い学生カップルがそれまで起きたことを覆すような事件を起こしてくれた。しかも私達が日本旅行中に。おそらくアジアの国からの留学生で飼ってはいけないはずの犬を連れている女性は挨拶してもツンとしていた。いつ頃だか私の部屋のバスルームの上でウォンウォンとモーター音がよく聞こえるのでなんだろうとは思っていた。夫とバケーションで日本に出かけている際に事件は起こった。長期で出かけると知らせておいた管理人さんからメールが届いた。

お宅の真上の部屋で水漏れがあり、天井が抜けました。これから修理を始めてきちんと乾燥させます。1週間で終わる予定です。私がちゃんと立ち会って修理を行います。何か質問があれば連絡ください。

メールを読んだ私はショックで頭がクラクラした。天井抜けるってどんな水漏れだろうと考えたが夫はせっかくの旅行を台無しにしないで楽しもうと言ってくれたのでアメリカに戻ってから怒り狂うことにした。帰ってから管理人さんに理由を聞いて写真を見せてもらって本当に呆れた。4階に住むあのツン女子がみんなが使う洗濯機はきっとキタナいからアタシは使いたくないの〜と自分の部屋に小さな洗濯機を買いこっそり使っていたのだが排水などもちろんきちんとやっていなかったのでどんどん水漏れしてちょうど私の部屋のエントランスとバスルームの間の天井に直径1メートルくらいの穴を開けてくれたらしい。私達はちょうど留守だったがもし部屋にいたら数日は確実に住めないくらいの被害だった。そもそも管理人さんが私の真下の1階に住んでいて彼女のところまで水漏れしてわかったらしい。管理人さんがすぐに色々対応してくれたので夫の大事にしているNIKEコレクションも無事だったし、私達が帰った時には天井も壁も綺麗になっていた。私はアパートのオーナーに電話をした。あのツン女子の顔を見たらきっと「ユー 大バカヤロー!」とぶん殴ってしまうくらい腹が立っていて誰かに文句を言いたかった。「犬も飼ってるし、足音もうるさいし、水漏れもするとんでもないあのテナント何とかしてください」オーナーは「僕からもきつく注意します。二度とこんなことはないようにさせます。」と私に何度も謝った。二度目があったら今度こそ訴訟だよと思った。日本ではどうなのかわからないがアメリカでテナントを追い出すのは結構大変なことなのでツン女子は私達が引っ越す時もまだ4階に住んでいた。

その他にもこのアパートにはいろんな思い出がある。チャイニーズニューイヤーの前夜の花火の音は戦争が起きたかと思うほどすごかった。花火じゃないヤバイ音もたまに聞こえた。アパートのお向かいがお上品なフレンチカソリックスクールで朝7時半から子供を降ろす車を整理するおじさんの大声がうるさかった。校風にそぐわない大声だった。学校が休暇に入ると静かになるのでよく学校のウェサイトをチェックしていた。アパートの前は路上駐車できるが時々夜中に車のガラスを割っている音でも目が覚めた。同じアパートに住むおばさんが自分の車の窓に『私の車には一切金目の物はありません。どうかガラスを割らないで』と張り紙をしていたが効果があったかどうかは知らない。そんな騒々しいエリアだったがアパートの隣はリッツカールトンホテルでおそらく宿泊されていたのだと思うのだが一度ダライ ラマをお見かけしたこともある。ニコニコと手を合わせながらの穏やかなお顔を拝見できて何もしていないのに徳を積んだ気分になった。

そもそも夫と別居するつもりで一人で契約した狭いアパートに気がついたら随分と長く住み、気がついたら夫もまた一緒に住んでいた。散歩コースもいっぱいあった。チャイナタウンの中の怪しげな賭博場の様な建物の横を通りぬけてイタリアンデリでサンドイッチを買ったり、フィッシャーマンズワーフでは観光客に紛れてみたりした。今は感染症のせいで多くのホテルが閉まったり、街中がひっそりしているらしいがまたいつか元気になったサンフランシスコを歩き回りたい。

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写真は去年の11月30日に無事に引っ越しを終えて泊まったホテルからの景色。ブルーのライトがリッツカールトンホテルで見えないけどその後ろ側に私の思い出のいっぱい詰まったオンボロアパートがある。



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