やはり、私は四の五の言わずに自衛隊に入るべきである

雨の冷たい1日だった。アノニマスの仮面が駐車場のフェンスにかかって濡れている。携帯ショップで虎のようなお母さんと熊のような図体の20代の男が携帯を契約しているのが窓越しに見える。携帯の料金をきちんと支払っている自身に安堵を覚える。4連休を必要以上にアクティブに過ごした反動で、そばかすのような赤い斑点が顔面に散っていた。16時間ぶっ通しで眠り鏡を見たが一晩そこらで消えるはずもなく、仕方なくファンデーションをブラシで伸ばした。

私は仕事柄、小学生と会話をする機会に多く恵まれているが現代の子どもたちは我々が考えているよりはるかに大人なんだな、と思う。小学生の時点で誰かに恋をできるような精神年齢に当時の私は至ってなかった、さらにいうならば中高生時代も怪しいものだったが。バレンタインデーに異性に本命チョコレートを渡す、という経験は想像するよりも貴いものなのかもしれない。小学生時代に正しい勇気の振り絞り方をしないと、大人になって正しく扱えないようになってしまう、大晦日に道頓堀のドブ川に飛び込む男みたいに。

私は完全に自分の世界の中で生き、それで完結しているタイプであったため、まともな交友関係を築くようになったのが高校生からであった。故に小中の友人のほとんどの人間の顔と名前、彼らの交友関係について全く覚えておらず、私自身も何をしていたか記憶にない。ただ通知表は小学校6年間、毎学期規則正しく「話を聞く」の欄に「もう少し」を刻んでいた。私もまた道頓堀の男側の人間なのだろう。

あまりに寒いのでスターバックスで高級カフェインを購入、摂取することにした。レジには中学生の頃勇敢にも私に告白をしてきたハーフの男の子がいた。流石の私も彼のことは記憶している、記憶の中の彼は私より背が低く、私より声が高かったが。ドリンクを注文し、最後に牛乳をオーツミルクに変えて欲しい旨を伝える。彼は素早く会計の処理をしながら「お元気でしたか?」と私に目線を寄越す。びっくりしながら「…覚えていたんですか?」と言うと、彼はスターバックスの店員然とした笑顔で「もちろん」だそう。

どっひゃ〜!何もうまい言葉が出てこず、乙女みたいにただただ頬を紅潮させた。放蕩の末にできた赤い斑点はちゃんと隠れていただろうか。次タイミングが良かったら連絡先を聞こうと思う。誤った勇気だ。