鳥人間コンテスト(6)

 深町一夫は漠然と死にたいと考えてばかりいた。
 6歳でファミコン、15歳でエヴァンゲリオン、16歳で日本語HIPHOPと出会い、19歳でテレホタイムのインターネットにはまり、青年期を過ぎ、いわゆる世間でいう<おじさん>と呼ばれる年になっても、高校生あたりから進歩していないと気付き始めていた。
 なんの間違いか結婚したものの、この春に離婚した。勤めていたデザイン事務所は正月過ぎに倒産し、今はパン工場で仕分けのバイトをしている。
 彼に翼が生えたのは梅雨の夜だった。広げるとほぼ身長と同じ170cm、畳めば40cm、小さなリュックサックほどだ。
 一般的に(というほど、有翼の者は多くないのだが)翼は白色か象牙色の者が多いのだが、彼の翼はカラスのように黒色をしていた。

 育った地元では皆が好奇の目で見てくるか、あからさまに無視される(これは一見するとまごう事なき善人であろう老人が多い)のがストレスに感じ、離婚後に東京に引っ越していた。ここなら映画館もあるしクラブもある。
 一人暮らしは心地よく、布団や床に黒い抜け羽根が散らかってても誰も文句は言わない。
 バイト先の人はみんないい人で、黒い翼があったとしても、まぁそんな人もいるよねぐらいに思ってる。役者志望、ロックスター志望といった変わり者が多いからかもしれない。
 バイトの内容は落ちゲーみたいな感じで、慣れれば楽である程度頭を使うから飽きない。人手不足のためか、時給もそんなに悪くない。贅沢しなければ貯金もできるだろう。ま、使ってしまうんだが。
 自分が働きたいようにシフトを組み、飲みたいときに飲み、見たいときにストリーミングのアダルト動画を見る。
 そのゆるふわ怠惰な時間を過ごしながら、深町一夫は漠然と、カジュアルに死にたいと考えてばかりいた。

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