見出し画像

三百年の子守唄 感想

ライブビューイングでみほとせを観劇したのですが、あまりにも感動したので文字にしました。ほほ無理矢理付いてきてもらった友人に介抱されながら2部を観ていました。2部の青江がしなやかだったこと以外あまり記憶にない。にっかり青江と蜻蛉切についても書きたかったのですが石切丸への感情がクリアしてないので、いったんあげます。

・優しさに満ちた物語
刀ミュはいつも歴史上の人物に対しての優しさに満ちている。(つはもので本来ならば死なねばならない源義経をもう、歴史としては死んだことになっているから、自分の人生を生きよと逃がした三日月など)しかし、今回はとびきり優しさに溢れていた。歴史を守るためとはいえ、一人の人物の一生を守りきったのだ。私は刀剣男士達が歴史ごと包容しているような物語だと感じた。

・呪いを背負った刀と幸運を背負った刀
千子村正は初め徳川家に対してよく思っていない素振りであったし、実際にそう口にしていた。けれど、終わってみれば本音半分気づかい半分だったのではないだろうかと思う。彼は優しい刀なのだ。終盤、物吉貞宗に『あなたは幸運だけを運びなさい』と言った。まるで、徳川の呪の部分は私が背負うからというふうに。
劇中、歴史的には徳川家康にとって悩ましく想う出来事には必ず村正の刀が関わっているような語り口であった。千子村正は数々の伝説の集合体であるがゆえ、その呪いを背負っている。そういった存在であれと願われて生まれたキャラクターであるから、呪いはアイデンティティーでもあるが彼の優しさを見えにくくする要因でもある。そうか、だから蜻蛉切は「だから、誤解をされるのだ!」と、時折言っていたんだね。

物吉貞宗に対しては、なんというか例外はあるが多くの短刀が持つ特有の無邪気さというか朗らかさゆえ、隊にやさしく最初は誰とも知れなかった赤子にもやさしく接しているのかと思っていた。しかし、それは彼の願われた「幸運を運ぶ」という願いが元になった優しさなのではないかと観劇後は思う。
徳川家康は奪われて失っての人生を悲しく思いたくなかった、だから物吉くんに幸運を運ぶことを願ったのではないだろうか。きっと最初の勝利はたまたま事がうまく運んだだけなのだ。刀はやはりどれだけ辿ろうとも『使われる物』であることを越えられない。しかし、すがって想われて願われたからこそ物吉くんを物吉くんたらしめることになった。幸運を運ぶ刀の九十九神になれたのだろう。彼の歴史が三百年の子守唄の重さ、零れ落ちる命の悲しさを抱きしめさせた。人に愛されたから愛さねばといった事なのだろうか?なんて、愛情深い刀なんだ。命つきる徳川家康の肩を抱きながら涙を流すお芝居には嗚咽が漏れそうになるのを塞き止めながらなんとか観ていた。横田さんのお芝居素敵だったな…

石切丸を縛るもの
・話はそれて 阿津賀志山異聞の話になるが石切丸が「ここは新撰組ではない!」と加州清光を叱責したことにかなり驚いた。なぜなら、穏やかで緩やかで誰にでも優しい刀だと思っていたからだ。私が花丸での彼の知識しかなかったからかもしれないが、体格通り懐も広いような思い込みがあったので正直頭が固いような印象を受けた。加州のいた新撰組の価値観ではそれが当たり前であったし、言い過ぎな気すらした。みほとせでも敵陣に対して「こんなものか」と呟いた大倶利伽羅に戦い足りないならば自分が相手になるから刀を抜けと言うほどに怒りを向けていた。彼は誰かが傷つくことが悲しくてたまらない。傷ついた人をないがしろにするような発言だって許せない。その慈悲深さと厳しさは時に自分すら縛るのではないだろうか。
彼は信康を切らねばならなかったのに切れず、結果的に検非違使がその任をこなすべく登場してしまった。この舞台は何故石切丸に背負わせなかったのだろう?この迷いは部隊にとって脅威となるのでは?と私は思った。いずれ殺さねばならぬと分かりながら育てたのなら、彼が背負うべきではないのか。そして、何故「私には切れない」と口にしたのか。口にすれば言霊となり確かなものとなってしまうではないか…彼は人間に寄り添いすぎたのだ。人間には向いているが刀剣男士には向かない性質だと感じる。だって、心根が優しすぎる。すべてを守ろうとして両手に収まりきらないから指から零れ落ちる命にも涙を流しているように思える。私は神剣なのに、神であるのに、もっと強ければ、彼らを守れたのに…と。あそこで切らなかったことで物語としては信康は生き延び五平と名を改め、自分の夢をかなえた。結果的にはよかったがその迷い悩む人間らしさが石切丸をこれからも悩み苦しめ続けてしまうのではないだろうか。それが心配だ。やはり神にしては優しすぎる。人の様だ。
と、綴ったが人の病気や災難を切ってきた(払ってきた)刀に人の命が切れるのか?自己の存在理由に反することを彼は出来ないのでは。出来ないことをやろうとしたから青江は「少々一人で抱え込みすぎじゃないかな」と彼を気づかったのでは?もっと強ければ力があれば…とは刀剣男士としての役割も越えられる存在であればなぁという願いか。

・青江が人の子が柔らかいことに可愛らしいことに驚き興味を持っている様子が心底愛らしかった。

嬉しすぎます!