見出し画像

縄文人も興味津々?『縄文コードをひもとく』展|埼玉県立 歴史と民俗の博物館

これは縄文土器に施された「顔」
あれ、どこかで見たような気がしませんか?

こんなユニークな顔がついた縄文土器が、
現在、『縄文コードをひもとく』展 ー埼玉の縄文土器とその世界ー に勢揃いしています。

先ず、このあまり聞きなれない「縄文コード」について。

縄文土器の名前は、明治の初め、アメリカ人のモース博士が東京の大森貝塚を発見した時に、その土器を「cord-mark」と呼んだことからはじまりました。
縄を意味する「cord」の文様がついた土器ということから「縄文土器」、この土器がつくられた時代を「縄文時代」と呼ぶことになったのです。

そして、そこに秘められていたのはもう一つのコード「code」
土器に込められた思いや願い、また土器を作るルールなどのを表す、規則や暗号といった意味の「コード」です。

この展覧会は、この縄文土器の「2つのコード」という視点から、土器の移り変わりや、彼らの生活や世界観を紐解いていくという試みです。

埼玉の縄文時代の始まりは、約1万数千年前。
この2つのコードが時には複雑に絡み合い、時には「cord」が見えなくなったりしながら、一万年以上の文化が続きました。

そして縄文時代の終わりの頃には、こんな「顔がついた土器」が多く作られるようになったのです。

『愛嬌のある顔の付いた注口ちゅうこう土器』

何とも表現のしようのない「顔」。
太い眉と鼻は一体となり、とろ~んとした大きな目、土器の注ぎ口が口にも見えてくるようです。

 赤城遺跡祭祀遺物集中地点|縄文晩期

耳のような、髪型のような表現もあり、
全体のふっくら感が可愛らしい。
頭に穴があいているのは、ここから液体を注ぐため。

注口ちゅうこう土器とは、中に液体を入れたもので、縄文時代の祭祀の場では〝酒〟を入れたものと推測されています。
今でいう御神酒おみきのようなものであったのかもしれませんね。

『顔のある粗製深鉢そせいふかばち

あら、かわいい!
クルリとした目の女の子?
荒々しい土器にワンポイントに施された顔、土器の口縁部の凸凹が髪のようにも見えますね。

 赤城遺跡完形土器集中地点|縄文晩期

粗製深鉢そせいふかばち(または粗製そせい土器)は粗製そせいが意味するように、粗雑な作りの土器で、日常的に火にかけて使っていたものと考えられています。
それに対して、先の注口ちゅうこう土器などの優れた技巧の土器は、精製土器と呼ばれます。

そしてトップ画像を飾ったのは、
『2つの顔をもつ注口ちゅうこう土器』

まるで○○えもん?
あの国民的アニメの猫型ロボットに似ていませんか⁉
しかも、鏡に映った後ろ姿には「2つの目の顔」!

神にささげるお酒が、こんな顔のある器で注がれたら、神様もビックリされるに違いありませんね。

 長竹遺跡|縄文晩期

『ミミズク土偶の顔を持つ注口土器』

ハンコで捺したような、まん丸の目や口が、あのミミズク土偶に良く似ています。
縄文時代後期に出現したミミズク土偶は、鳥のミミズクに似ていることから名前がつけられ、埼玉県ではとてもポピュラーな土偶です。

諏訪木遺跡1号竪穴住居跡|縄文晩期

こちらは常設展で見かけた『ミミズク土偶』
この土偶を見ると、土器の顔の左右にある不思議な丸い文様は、土偶の耳にあたるものなのでしょうか。
製作者は、土偶を土器へと表す難しさ?を感じていたかもしれませんね。

後谷遺跡|縄文後期

『出自不明の顔がある注口ちゅうこう土器』

仏様のような温和な表情のお顔。
顔廻りの波状の文様はウエーブのかかった髪のようです。
一文字に結んだ口元は、どこか上品で尊さを感じられます。

とは言え、ここでは「出自不明」ということで、この顔のルーツが分からない謎多き土器です。

長竹遺跡201号土坑|縄文晩期

『鉢巻をした人の顔がある深鉢』

上記の土器よりも前の時代に作られ、土器の把手部分に顔の表現があるものです。土器装飾の一部を「顔」にしたようで、「顔のある土器」の先駆けとして作られたのかもしれませんね。

長竹遺跡629号土坑|縄文後期

『塞がれた口縁部に顔がある注口ちゅうこう土器』

液体を注ぐ部分に、顔のように見える装飾が施されています。
顔に見えるのは偶然かもしれませんが、上からの見た目にも気を配っていたことをうかがわせる土器です。

赤城遺跡祭祀遺物集中地点|縄文後期

ところで、これらは何のための「顔」であったのでしょうか?
祭祀などに使ったと思われる土器であることから、「祈り」がこめられていることはわかりますが…

案外と、最初はもっと普通に、
「人々を惹きつけるアイテムの一つ」であったのでは?とも思えてきます。

縄文時代を追っていくと、
そこには私たちとあまり変わらない人間がいたことに気がつきます。

夏涼しく冬暖かい竪穴住居、季節ごとの食べ物や保存食、狩りや生活のための道具、ヒスイや瑪瑙といった美しい石や真珠、海を渡っての交易、季節ごとのマツリ、そのための美しい装飾品…。

暮らしの中には、それなりのルーティンがあり、楽しみがあり、時には辛いことや悲しみがあり…今の私たちと同じように、感じて、考えて、笑って、泣いての日々、であったことでしょう。

そんな生活での大イベントが祭祀。
楽しみであり、皆の結束を高めるマツリです。

そのマツリを盛り上げるアイテムが、
この顔のついた土器であったのではないでしょうか?
「これは、なに?」「なんだか、楽しそう!」と、マツリの意味をまだ理解しない子どもや、マツリなんて…とちょっと冷めた若者までもを惹きつけた〝顔〟。

そしてそこには、
巧みに「2つのコード」が取り込まれ、
脈々と繋がってきた文化を受け継いでいく…。

このように、『縄文コード』をちょっと斜めから、私たち目線で紐解いてみると、なんだか縄文時代がとても身近に感じられてきますね。

でも出来れば、縄文人に「顔のある土器を見てどう思った?」と聞いてみたいところですが。

*参考資料
縄文コードを紐解く 図録 

最後までお読み下さり、有難うございました

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?