「掌編小説」 マッチングアプリ
私は、35歳の女性で名前を竹中真奈という。
横浜のマンションで一人暮らしを続けて、アパレルの会社員をしている。
しかし、コロナの影響で、リモートワークが始まり、社内での人との交流がなくなった。
もちろん仕事のあとの、社内みんなでの飲み会もなくなったし、年のせいもあって、合コンの話もなくなった。
そんな時、私の高校からの親友の女友達から、Lineのチャットで連絡がきた。
マッチングアプリで出会った男性と結婚するという。
「良いよう、マッチングアプリ。」
彼女は心の底から幸せそうに言う。
「そうなの?」
私は半信半疑で答える。
「そうだよ。出会いなんか待ってたって、向こうからは来ないんだから、積極的に自分から行動を起こさないとためだよ。真奈もやってみなよ、マッチングアプリ。」
私はとりあえず、「結婚おめでとう」とだけ最後にチャットに残した。
本音を言うと、結構ショックだった。
彼女とはずっと仲良くしてきて、これからもずっと2人で生きていけると思っていたからだ。
結婚したら、今まで通りには会えなくなる。
彼女にはもう旦那様ができるのだ。
「マッチングアプリって、なんか怖いイメージがあったけど、私もやってみようかな。」
あまりの寂しさに、初めてそう思った。
ネットで調べてみたら、30歳以上の人限定のマッチングアプリがあったから、それに登録してみることにした。
「私たち、これで結婚しました。」
そういう幸せそうなカップルの写真ばかり、そのマッチングアプリのホームページには載っている。
「思っていたほど、怖そうじゃないや。」
私は少し安心して、そのマッチングアプリに無料登録するために、自分のメールアドレスを書きこんだ。
アプリ本部から返信がきて、あとは男性陣に公開するプロフィ―ルを作成していく。
名前は実名は怖いからもちろんハンドルネーム、写真は一番自分でも良く撮れたと思ったものを選んで、後は簡単な挨拶、マッチングアプリに登録した理由、休日の過ごし方、具体的な自分の趣味、理想のタイプ、などを記入していった。
仕事内容は、職業名、会社員、アパレル会社に勤務していること、「住んでいる市町村名は具体的に書いてください。」ということだったので、横浜市と正直に書いた。
実際問題、あんまり遠いところの人とは付き合えない。
最初から遠距離恋愛になってしまうし、デートも頻繁にはできないだろう。
それは困る。
相手も困るから、このぐらいの個人情報は載せるべきなのだ。
プロフィ―ルが完成すると、あっという間に、男性陣からのスキがたくさんついた。
たぶん載せた写真が、実際の年齢より若く見えて、可愛かったんだろう。
私も男性陣のプロフィ―ルを見まくる。
あんなに怖いと思っていたのに、今はもう夢中だ。
「なるべく地元の人がいいな」と思っていたら、いた!
横浜市だ!
横浜在住の35歳、私と同い年で、中学生のサッカークラブのコーチをしている人らしい。
プロフィ―ルの写真も、とても素敵だ。
私は彼にスキをつけて、彼も私にスキをつけた。
アプリでのチャットがすぐに始まり、2人とも地元が横浜市ということでとても盛り上がった。
「お名前は何て言うんですか?」
私は実名を聞いた。
「その前にLineを交換しませんか?」
彼がそう言うので、私もそれに賛成した。
彼に会う気、満々だったからだ。
Line交換をしたら、彼が自分の実名をチャットで名乗った。
「大久保誠也です。」
「もしかして、あの大久保誠也くん?」
私は思わず言った。
「なんで俺のことを知ってるの?」
彼が言う。
「高校も同じじゃない?ほら、○○高校!」
「そうだよ。よく分かったね。」
彼が不思議そうにまた言う。
「ほら、覚えていない?3年8組の竹中真奈です。」
「ああ!君か!」
彼も喜びの声をあげている。
「俺たち、3年のとき、クラスメートだったよね。」
「そうよ。私あなたの事が好きで、バレンタインにチョコをあげたでしょ?」
「うん、覚えているよ。とても嬉しかったんだ。」
「でもあの時、あなたには彼女がいて」
「そうだったね。」
「私、とても好きだったのよ。」
「うん。」
彼は照れているらしい。
「もういっそのこと、Line電話にしない?」
私は本当に嬉しくて、浮かれて、彼に提案してみた。
「うん、いいよ。」
彼も喜んで、賛成してくれた。
あの大久保誠也くんにまた出会えたなんて!
私は有頂天になった。
「マッチングアプリを始めて良かった!」
私は心底そう思った。
ところが、それからLine電話で2人で話を始めたのだけれど、彼の声が思っていたより、高いのに気づく。
「大久保くんの声、こんなに高かったかな?
なんか思っていたのと違うな。」
それが最初の違和感だった。
しばらく、高校時代の話が続いて、彼が言った。
「体育祭、楽しかったよね。」
「え?」
私は固まった。
私の高校は体育祭がなかった。
私立の進学校だったため、そういう学校の行事みたいなのはほとんどない特殊な学校だった。
「あなた、一体誰なの?」
私はその時、初めて、自分が騙されていることを知った。
「明日、会う約束していたけど、やめます。」
私の声は震えている。
「うん、いいよ。これからそちらに向かうから。」
彼が笑って言う。
私は彼が私の知っている大久保誠也だと思い込み、自分の住所とか個人情報をペラペラ話してしまっていた。
私は、急いで彼との電話を切り、マッチングアプリも消したが、目の前が真っ暗になり、めまいが起きそうだった。
その3時間後、私のマンションの部屋のインターフォンが鳴った。
「ピンポーン」
夜中の、2時だった。
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