【短編小説】 オレンジ色

男はみかんが好きだった。

男が一年中みかんを食べていたら、ある日突然、男の指先があのみかんの色のオレンジ色に変色し、肘から肩、髪の毛、足の指先、手足の爪、眼球、耳の中まで、そのオレンジ色が侵食していった。

男は驚嘆し、急いで、病院に駆け込んだが、男を診察した男性医師はこう言った。

「みかんの食べすぎでこうなったのですから、みかんを食べないで放っておけば、そのうちそのオレンジ色もなくなるでしょう。」

「でも、先生、これでは電車に乗れません。通勤電車に乗れないんです。」

男は普通の会社員だったから、心底困って、医者に訴えた。

「今はコロナ渦ですし、リモートワークで何とかなるでしょう。」

医者は明るくそう答えた。

男は自分のアパートに戻ると、ネットで自分の体のオレンジ色を急いで抜く方法を検索したが、何にもその方法が出てこなかった。

男は藁にもすがる思いで、そのみかんを毎回送ってきてくれているみかん農家に電話をして、事情を話した。

「みかん農家なら何か方法を知っているかもしれない」と思ったからだ。

そのみかん農家で男の電話対応をしてくれた女性は、こう言った。

「とりあえず、水を毎日3リットル2週間飲んでください。」

男は半信半疑で、でもそれしか方法がないので、2週間毎日、3リットルの水を飲み続けた。

すると不思議なことに、男の体からオレンジの色がほとんど消えた。

「ありがとうございます。本当に助かりました。」

男は電話でみかん農家の彼女に感謝の意を伝えた。

「いいえ、オレンジ色が消えて本当に良かったですね。」

彼女も嬉しそうに男にそう答えた。

男は不思議そうに彼女に聞いた。

「でもどうしてオレンジ色を急いで抜く方法をあなたは知っていたんですか?」

彼女はおかしそうにこう言った。

「だって、私、子供の時にみかんの食べすぎで、定期的に体がオレンジ色になっていたんですもの。そのうち、水を飲んだら、体中のオレンジ色が薄まるのを発見したんです。」

そして彼女は最後に男にこう言った。

「眼球もオレンジ色になるから、あなたも知っているようにその間だけ世界中がオレンジ色に見えるでしょ?幸せな、暖かい色のオレンジしかない世界というのも、とても素敵なものですよ。」

         

       了


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