見出し画像

【修行旅】星の巡礼道カミーノ ポルトガルの道④

9月12日 バルセロス〜ポン・デ・リマ  33km

朝5時。
周りのパッキングの音で目覚める。洗濯物を取り込んだり、歯磨きをしたりなど、準備をしていたら6時になっていた。
あまり遅くなると距離が長い今日の日程はきついだろうと、アルベルゲを出る。

バルセロスの城壁の前を歩いていると、左から声が聞こえた。
「Hey!!」
暗くてよく見えなかったので、そのまま歩き続けた。
「Hey!! I do not have a light. I follow you!!」
よく見ると昨日一緒に歩いていたブラジル人のシンディアである。彼女はライトを持っていなく、まだ暗い朝で歩けなかったようだ。

カミーノでは基本的に一期一会だ。
みんなそれぞれ歩くペースは違うし(多分僕は歩くのが相当早い)、アルベルゲを出る時間も違う。ましてやどの街を経由していくかすらも違うので、こんな風に次の日も一緒に歩くのは、僕はこれが最初で最後だった。

シンディアはキリスト教徒だから、これと言った歩く理由が特別にあるわけではないらしい。
出会ったなかでは半分くらいがキリスト教徒の人だった気がする。

徐々に空が明るくなってきて、美しい朝日が登ってきている。
陽の光がぶどう畑と雲に反射している様が幻想的だった。

明るくなってきて、シンディアがバルで休憩するというのでここでお別れした。

山間の霧の中を歩いていると、カエルが車に轢かれて死んでいた。

「死」といえば、一つ思い出すことがあった。
就職活動の面接だ。
僕が割と行きたかったが、役員面接で落ちてしまった会社があった。そしてその役員面接で聞かれた質問がこうだった。
「君は”死”についてどう思う?」
身近な人の死ですら体験したことのない自分には、答えが詰まってしまう質問だった。

人は死の間際に走馬灯を見るというが、それは本当だろうか?
どちらか言うと、想像より呆気なく、突然やってくるもののような気がする。走馬灯を見たり、誰かのことを考えたりなどしている余裕は多分ないだろう。
だからこそ、その時に思い返さなくてもいいように、自分にとって大切なモノやコト、情報、感情は記憶に刻みつけておくべきだと思う。
その時しか味わえない状況や気持ちを、その時に楽しむべきだ。今を一生懸命生きること、後から考えても、当時の自分にとってそれが最良の選択だったと思うように生きることが、最も死に抗う方法な気がする。

「君は”死”についてどう思う?」

この質問に対する答えは、正直今でも見つかっていない。なんて答えたらいいのかわからない。でも、「後から後悔しない選択をして生きていく」ことが今の自分が出せる回答だ、と思った。

正直、この質問に答えられなかった自分が死ぬほど悔しくてたまらなかった。でも、少しでも、この質問に対して前に進めたことが、自分にとっては嬉しかった。

この日はかなり平坦な道が続き、距離は長かったが、特別疲れることはなかった。
家族で歩いている人たちもいて、小学生くらいの子供も、自分と同じような装備で歩いているのを見てびっくりした。

この日のゴール地点であるポン・デ・リマはリマ川にかかる橋がとても綺麗な町だ。
かつてのローマ時代の橋らしく、街も静かな雰囲気が漂っていた。

アルベルゲで受付をしていると、シンディアが遅れてやってきた。
「We made it!!」
お互いの健闘を称え合ったが、どうやら宿がいっぱいらしく、別のアルベルゲに泊まるらしい。

カミーノはよく「星の巡礼道」と言われる。
しかし、思い返してみれば、満点の星空を見えた日が一日もなかった。結局この日も夜の空は曇っていた。
川沿いのバルでパスタを食べながら、日本に帰るまでに星空を見たいな、と思った。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?