マガジンのカバー画像

短編小説集

7
1話読みきりの短編小説です。
運営しているクリエイター

記事一覧

【短編】木漏れ日の中の憧憬

 僕は目を瞑る。     春が少しだけ入り口から歩を進めたような頃。桜はすでに散り、大き…

Inokichi
5か月前
10

【短編小説】余事象

 余事象。なんと美しい言葉なんだろう。学習塾の講義で聞いたその言葉が、彼の脳裏から離れな…

Inokichi
8か月前
8

【短編小説】猫人2

 大学2年の夏の少し前に羽衣子と出会った。出会いはごくありふれたところで、僕らの大学のサ…

Inokichi
2年前
5

【短編小説】今すぐ14階の窓から飛び降りろ

 地下鉄の駅から歩いて2分としないオフィスに戻る僕の足は、深い深いぬかるみに取られたよう…

Inokichi
2年前
6

深夜の運転席にて

 僕は冷蔵庫から缶ビールを1本取り出し、宿舎の駐車場に停めてある白いクレスタの運転席に座…

Inokichi
2年前
12

【短編小説】野球をやめる

  中学3年生の最後の大会は、期待された割には実にあっさりと負けてしまい、長い夏休みと、…

Inokichi
3年前
3

【短編小説】おはよう。地球

「今日の外気は90度を超えます。展望デッキに出る際はお気をつけください。」  第三管区の朝のラジオ放送が伝えてくる。まだしばらくは酷暑の太陽側が続く。月の第三管区は昨年できた地球退避用の最新シェルターだが、それでも外側に近い部分はかなり暑さを感じることがある。こう言うときは、地球を見るデッキ近くに行く時に熱射病に気をつけないといけない。  淳と離れてもう1年近くになる。  未知のウイルスに襲われた地球は、大気が汚染され、空気を普通に吸うことができなくなり、多くの人間が死ん