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【小説】40歳のラブレター(1)「手紙」

 今日は風の強い1月の夕方で、僕は会社のパソコンの前に座っています。でも、パソコンはスリープ状態で、僕は久しぶりに薄い水色の便箋を買ってきて、これからあなたに最後の手紙を書こうと思っています。最後に連絡をしたのがこの前の地震の時で、その時はフェイスブックのメッセンジャーで連絡をしましたが、今回は最後ということなので、思い切って手紙を書きたいと思います。もしかしたら長くなるかもしれませんが、最後まで読んでくれたら嬉しいです。

 そもそも最後の手紙というけれど、僕はあなたに手書きの手紙なんて一度も送ったことがないのではないかと思うのです。それが、なぜ改まって手紙を書こうと思ったのかというと、僕自身があなたとのことを忘れたくないと思ったからです。結婚をして4年経ち、子供も産まれて、仕事も大したことをしているわけではないけれど、それなりに忙しくて、そんな毎日を過ごしていく中で、だんだんとあなたのことを、あなたへ持っていた思いがどんどんとその後ろ姿が小さくなっていくことを感じていて、でも、この間の地震の時に、真っ先に思ったのはあなたのことで、すぐに連絡して、無事だと知って、それで、20年前のことを思い出したわけです。いや、20年前からの20年間を思い出した、という方が正確ですね。

 僕にとって、不自由で、不器用で、うまく立ち回れなくて、でも、一生懸命で、一途で、綺麗だったこの20年間の思いを、僕はどうしても忘れたくないと思いました。だから僕は、書いておこうと思ったのです。書いて、記録して、留めておこうと。

 それは、本来ならば、僕が勝手に書いて、僕自身のどこかにしまっておけばいいものです。
 でも、こうして書こうと思い、どんな風に書こうかと思っているうちに、どうしても、あなたにも僕のこの思い伝えたい、そしてできれば留めておいてほしい、という気持ちを押さえられなくなってきました。もしかしたらあなたにとっては迷惑極まりないことかもしれないし、こんなことを手紙にしても、途中まで読んだら丸めて捨てられてしまうかもしれない。だけど、それはきっと僕にはわからないことで、(あなたはわざわざ、「こんな手紙いらないから捨てたわ」とは言ってこない人ですから)だから僕は、この手紙をあなたに出した、ということ自体で、あなたと思いを共有した、と思うことができます。

 そこには、いいね、もつかないし、既読、もつかないからです。
 そう思うと、手紙というのは、とてもいいツールですね。一方的に思いを伝えるには。

 ということで、僕は、あなたと出会ってからの20年間のことを書きたいと思います。どんなことがあって、僕がどう思っていたか、感じていたかを。願わくばあなたが、この手紙を最後まで読んでくれることを。

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